2chの男女恋愛に関わる 復讐話寝取られ話旅スレ に特化した話題を掲載していきます。
easterEgg easterEgg
 
 

僕とオタと姫様の物語
(5ページ目)  最初から読む >>

 

\ シェアする /


262 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   投稿日:04/09/03(金) 18:35
とは言うものの。Hは だめらしかった。

彼女の細い腰に腕を回して、引き寄せようとすると、逆回転で あっさり逃げられてしまった。

アメリカ製カトゥーンのキャラクタよろしく、彼女は人差し指をまっすぐに立て、左右に振り ちっちっちと口で言い、それから声に出して笑った。

彼女が子供っぽいしぐさで きゃあきゃあ笑っていると部屋のドアがノックされた。ホテルの従業員だった。

彼は サンドイッチとコーヒーポットの載った銀の四角いトレイを持っていてホテルの便箋に書かれたメモをいっしょに ぼくに渡してくれた。

友人からだった。

メモには、ただ「おはよう」と書かれてるだけだった。


ベッドに行儀よく並んで座ってコーヒーを飲みサンドイッチを頬張りながら、今日の予定を話し合った。


ぼくが一度 家に戻って着替えてくると言うと彼女は渋谷に用事があって、それは すぐに終わるということ、その後で どうしたのか ぼくの家についてくると言い出した。

ぼくの部屋と家族を ほんのちょっとでいいから見てみたい、ぼくの部屋の窓から外が見たいと言い出した。

何となくわからなくもない気がした。彼女の気まぐれについて。

彼女が家族の団らんを欲しがってるとか、そんなふうには思えなかったけど そこが気まぐれの理由だったりもするんだろう。

何より、ぼく自身に興味を持ってもらえたことが、ひどく嬉しかった。ぼくは すぐに おーけいした。

見られて困るものなんてなにもない。貧乏家族がいるだけだ。


結果 彼女が1時間ほど早く出発することになり、ぼくが使ってる最寄駅で待ち合わせることになった。

もしかすると御節の残りくらいあるかもしれない。

馬鹿な弟が全部食べてなければだけど。



263 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   投稿日:04/09/03(金) 18:36
彼女が出発してすぐにオタからメールがあった。

忘れちまってたよ。昨夜は いろいろありすぎたし。


 >まだ探偵ごっこですかヒロくん

 >君をそんなに魅了してやまない嬢様は

 >きっと とびきりの美人と判断します

 >見ただけで射精しちまうとか。おっと失礼。

 >画像アップよろしく。

 >希望が聞き届けられない場合は

 >返信もありませんので どうかご理解のほど

 >よろしくお願いいたします


頭が痛くなった。弟といいオタといい。

話をしてると、いつも何かしら面倒なオマケがついてくる。

オタは無慈悲だ。こと こういうことに関しては。放っておけば まずレスはない。

仕方ないから初めて姫様に会った晩、渋谷のどこか、たしかホテルに向かう途中の路上、自販で買ったコーヒーを飲む彼女を撮った画像を送った。

ケータイの画像だし、写りはよくない。

不自然な強い影のせいで、彼女が あまり美人でないように見える一枚。

オタは すぐに興味をなくして、レスをよこす。

ぼくのほうが一枚上手ってこと。


送った途端、早くもレスが来た。これには驚いた。


 >ヒロくん。ぼくが芸能界に疎いと知ってて適当な一枚を送っ

 >てきたのでしょうか

 >どこかのサイトに転がったアイドル写真など興味ありません

 >嬢様の画像を希望します

 >それでも尚わたくしめを愚弄なさるおつもりならば、

 >金輪際 返信はないものとご理解ください




264 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   投稿日:04/09/03(金) 18:39
頭がいたい。すぐにレスを返す。

 >嘘じゃないよ。ほんもの。さ、早く情報希望。

 >あの3枚のgifはなんだった?



オタから。

 >あせってもらっては困るよヒロくん

 >まだこっちの条件に答えてもっらてない

 >ほんものというなら あと2枚別アングルを所望


だめだ。意地になってる。

どうも こういうところが大人気ない。オタの悪いところだ。

とはいえ送らないではレスもない。絶対に。

缶コーヒーを持って笑ってる彼女の画像。

それから決定的な、ぼくとふたりで写ってる画像の2枚を送った。

すぐにレスが来た。


 >嬢様幾ら?おれも買う

 >つか、めちゃめちゃいい女。おれも好きになった

 >これじゃ不公平だ。おまえは おれに分けのわからん何かを

 >突然送りつけてくる

 >おれは必死になって解読する。おまえだけ得。おれは損。

 >こんな馬鹿な話があるか?



だめだ。相手にするのはやめた。

ポットに1杯だけ残った最後のコーヒーをすする。
すごく美味い。

カーテンを開けて部屋から見える都内の風景を眺めた。鳥が飛んでて、申し訳程度に緑もあって、そんなに悪くない。

ウインカーを点滅させながら ゆっくりとカーブを進む車。

雨が降り始めたせいで、足早に歩くサラリーマンの黒い点。

風景を眺めてると、姫様との数日が まるで嘘のように思えた。


頭の中で、風景から人の動きを線で結んで切り取ってみる。

もちろん そこから何かを拾ってくるほど、ぼくは頭がいいわけじゃないし 閃きに突然襲われる天才であるはずもない。

でも、高速で移動する点を眺めるのは ぼくには どこか息苦しかった。ホテル壁面に遮蔽されて、動かない点。それが いまのぼくだ。


姫様の中へ逃げ込もうとするぼく。

気まぐれに ぼくを求める姫様。

つよい風が吹いて、大きな ぴかぴかの窓に雨粒を叩きつけた。雨粒は人を結ぶ線と重なって、頭のなかで弾け飛んだ。

ああ、そうだ。ぼくには奥の手、オタが目の色を変えて飛びつくワイルドカードがあったんだ。

 >オタ。君は たしかぼくが持ってる

 >エアジョーダンに興味があったよね

 >企業プレミアム

 >邪魔だから捨てようかと思ってたとこなんだけどさ


効果はてきめんで、すぐにレスがあった。


 >もうすこしお待ちください

 >分かり次第すぐにお送りします


オタのことだ、どうせ放っておいたんだろう。



273 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   投稿日:04/09/04(土) 00:05
最寄駅の改札を出ると、彼女は もう来ていて駅前のパン屋のカフェでコーヒーを飲んでいた。

パン屋のガラスに貼られた大きなロゴを通して、ぼくに手を振った彼女。こういうときって、不思議にすぐ気づくんだよな。

会計は済ませてあるのか、彼女は すぐに腰掛けてたストールから降りると足早に店から出てきた。


ぼけっと立ったまま彼女をみつめるぼく。白いコート。キャラメル色の細い、踵の高いブーツ。長く降ろした髪。上品な化粧色。

心底驚いてしまった。

デートクラブから呼び出されてくる女の軽い匂いなんて どこにも残ってなかった。

はじめて会ったときの子供っぽさも、酔いつぶれてホテルまで運んだときのだらしなさも 昨夜泣いた可哀想な姉としての彼女も どこかへ消えて近づき難い どこかのお嬢様が目の前にいた。

過去を詮索するなんて とんでもない。どこか存在感のない綺麗さ。


ぼくは すぐに、彼女を家へ連れ帰ったときの「家族全員にたいする悪影響と そのダメージ」について考えてみた。

上がりまくる親父。キョドる弟。

白いコートを着た雪女が室内を完全冷凍したみたいに、空気もろともカチンと凍りつかせるだろう。

大げさなアメリカ製カトゥーンの1フレームが間違いなく我が家に再現されるだろう。


ぼくらは連れ立って家へ向かった。だって、そうするしかないもんな。




274 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   投稿日:04/09/04(土) 00:08
小さな商店街を抜けると すぐに郊外の田園風景。

風の匂いに草の香りが混ざる。

それでも どこからか運ばれてきた車の排気と人口肥料の鼻をつく匂いも かすかにあって、とてもノスタルジックからは ほど遠い。


彼女は自分の家のまわりの風景に似てると言った。

そうだね。都内も郊外も都市近辺は どこも似ている。画一化された緑化計画と企画品でつくられた建造物。

どこもかしこも、まったく同じプラスチックがシームレスに並んでるように見える。なんだか生きてるみたいだ。

現実は非現実的で、夢物語が現実。

映画のストーリーやテレビドラマの中に生きながら街に溢れる人。


いつの頃からか、ぼくは姫様をこの世のものでなく どこかしら遠い夢の世界の住人として捉えるようになってた。どうしようもない現実の中で苦しんでる姫様を。


これは推測だけど、彼女がお守りとして 後生大事に持ち歩いてるクマのぬいぐるみは きっと彼女が小さかった頃、もっと小さかった弟に作ってあげた大事な品。

首に下げれるように首のとこに紐通しが のこってていまでは そこがほつれて、中身のビーズが飛び出しそうになってる。このクマが つまり ぼくそのもの。

現実には存在するのに、存在しないもの、意識のないものとして扱われる、でも愛すべき対象。

クマのご主人様は とうの昔に死んだ。でも造り手は いまでも その名残と記憶を愛してやまない。

彼女が何年も前に失った弟は いまなお彼女の側にいて、彼女を苦しめてる。

つまり間違いなく実在する現実。



275 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   投稿日:04/09/04(土) 00:14
ただいま。と言って玄関で靴を脱ごうとしている ぼくに母親は愚痴のひとつも浴びせてやろうとして飛び出してきたに違いない。

「どこをほっつき歩いてるのこの子は」

そう言ったきり口を開けたまま動かなくなってた。


白いコートを着た雪女の犠牲者第一号。

彼女は控えめな演技で「こんにちは」だか「お邪魔します」とか とにかく そんなことを言ったと思う。

母は、彼女を みつめたきり しばらく動かなかった。


居間へ彼女を通してからが見ものだった。

馬鹿な弟も、普段は陽気な親父も、正座したきり それこそ借りてきた猫みたいに大人しくなってた。

言葉が ありえないほど丁寧になり 何度も自分の後ろ頭を叩きながら喋る弟は、まったく馬鹿そのものだった。


中学のときの同級生で、ばったり駅で何年かぶりに会った。と紹介しておいた。彼女と軽く打ち合わせてたので、スムーズだった。

とはいえ、いままで まったく女気のないモテナイ息子が いきなりこんな美人を連れ帰る説明としては やや足りてなかったのかもしれない。

ただ、彼女にはアドリブのセンスもあって、高校生になってから少しだけ付き合いがあったこと。

ぼくの母が育てていたセントポーリアの鉢植えを、実は こっそり一株分けてもらってたこと。

そんなわけで、お母様には お伺いして一言お礼を言っておきたかったこと。

そんな話をさも事実のように、柔らかな笑みで語ってくれたので家族の注意は そこに注がれた。


これには ぼくも驚いた。居間に通されるまでのわずかな時間に彼女は何をみたんだろう。

そして そこに反応したのは ぼくだけじゃなかった。

母が、ぼくが高校生の頃に、鉢植えがいくつも盗まれたけど、あれは おまえの仕業だったのかと言い出した。

実のところ母はひどく喜んでいた。自慢もたぶんに入ってる。盗まれるほどの自分の技量に対してと、姫様が草花に興味があったこと。


もっと驚いたのは、それきり母と姫様は意気投合してしまったということ。世の中何が起こるか さっぱりわからん。

母がもう充分だと言う姫様に、食べろ食べろと御節の残りを勧め。

親父は姫様に お酌してもらって、悔い無しといった感じだった。

馬鹿弟は馬鹿よろしく、デジカメを持ち出し彼女を撮影すると言い張り 彼女に やんわり否定されて、心底落ち込んでた。


夕方になって ぼくの部屋を見た彼女が、窓辺で やけに悲しそうに外の風景を眺めてるのを見て ぼくは そろそろ行こうか、と切り出した。

彼女が帰ると聞いて、すっかり しょげてしまった親父。


駅へ向かう道の途中、泣き出してしまった姫様。

昨夜のように激しくではなかったけど、静かな鼻をすする音が夜道では やけに響いた。なんで わたしの両親は死んでしまったんだろう。

なんでわたしの弟は、まだ幼かったわたしを最後にひとり残して死んでしまったんだろう。

その理由が知りたい。この世で起こるありとあらゆることには何かしら理由があるんだと思う。

彼女は たどたどしい口調で、見つからない言葉にいらいらしながら そんなことを言った。

「ヒロは いいね。優しい両親と弟がいて」

彼女は そう言ったきり黙りこんでしまった。


セントポーリアの鉢植えの嘘とトリックを、ぜひ聞いてみたかったけど、とてもそんな雰囲気じゃなかった。






\ シェアする /


関連記事

 
 
 
 
 

 
 
 
 

おすすめ記事2

 
 

人気記事(7days)

 
 
 

おすすめ記事1