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変わり果ててしまった妻
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「絶対に訴えてやるからな!」

私は馬鹿の一つ覚えのように、ただ「訴える」を繰り返していた。


「どちらにしても、今後妻とは二人だけでは会うな!」


「それは聞けない。悪い事をしているとは思っていないので。

それに今私が見放したら、千里は精神的におかしくなってしまいますよ。

私には そのような薄情な真似は出来ないから、これからも今の関係を続けます。

勝手に裁判でも何でもおやりなさい」


所長の言う通りだった。

何度も殴ろうと拳を握ったが、その度に所長の言葉を思い出し、殴る事も出来無い私は完全な負け犬で、ただ尻尾を巻いて帰るしか無かった。

死にたくなるほど情けない。

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妻は約束したにも拘らず、その夜も帰りが遅かったので、眠れずに待っていると、深夜の1時近くになって調査員から電話が入る。


「今警察にいます。奥様が事故を起こして普通の精神状態では無いので、すぐに迎えに来て下さい」


警察に行くと、妻は放心状態で駐車場に立っていた。


「自損事故で、少し腕をうっただけで大した怪我も無いようです。ただ車は動きませんが」

妻の運転する車は ふらふらと何度も中央線をはみ出して、対向車に気付いて急ハンドルを切ったために、路肩の標識にぶつかったらしい。

それを尾行していた調査員が助けてくれた。


「妻に何があったのですか?」


「ええ・・・・・・・調査結果もまとめて、詳しい事は所長の方から話しますから、明日の夜にでも来て頂けますか?それまでに調べたい事もありますので」


助手席の妻は私に背を向け、窓から外を見詰めたまま動かずに、家に帰ってからも放心状態のままだった。


「青山と会っていたのか!どうして約束を守らない!」


しかし、妻は何も答えず、焦点の定まらない目で一点を見詰めている。

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そして翌朝、妻は まだ普通の精神状態ではないようだったが、私の言う事も聞かずにバスで会社に行くと言って出ていった。



私も出勤したものの、仕事どころでは無く、約束は夜だったが午前で切り上げて興信所に向かう。


「青山に会われてどうでした?調査員が張り込んでいて、会社に来られた時に止めようと思ったらしいのですが、間に合わなかったと言っていました」


「すみませんでした。所長の言われていた通りで、惨めな思いをして帰って来ました」


「青山は かなりの男ですよ。昨日、ご主人が乗り込んだ事で、見張られていると分かっていたはずなのに、平気でまた奥様と・・・・・それに・・・・・」


「それに何です?」


「その前に、青山が会っていた女性が分かりました。今週も二度会っています」


写真を見せられたが、私はその女性を知っていた。


「小料理屋の・・・・・」


「そうです。女将は青山の愛人です。会った日は食事をした後、二度とも小料理屋に泊まっています。昔風に言えば お妾さんですか」

小料理屋の女将が愛人だとすると、これで青山と恵理が繋がった。

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青山明、54歳。

大学時代に近所の若い奥さんと不倫して、相手が離婚したために責任をとるような形で卒業と同時に結婚したが、彼女とは一年で離婚している。

二番目の奥さんも、やはり人妻で、彼女が妊娠したのを、きっかけに35歳で結婚して、2人の子供を儲けたが、半年前に女癖の悪さが原因で離婚していて、まだ学生の子供2人は奥さんが引き取る。

昔は かなりの道楽息子だったらしく、仕事もろくにしないで遊び歩いていて、先代の社長である父親に勘当されたが母親が甘く、その間も十分過ぎる生活費を渡していたので懲りずに遊び歩いていた。

そして7年前に父親が急死し、母親が呼び戻して社長に就任。


清水美穂、46歳。

以前は青山の会社にパートとして勤めていたが、青山との関係がご主人に知られて、離婚されたのをきっかけに、会社を辞めて3年前に小料理屋を始める。この時の開店資金は青山から出たものと思われる。


「女癖がかなり悪いですね。浮気相手は人妻ばかりで、身近な人間でもお構い無しのようです。

奥様の他にも、過去に男女の関係になったパートさんが何人かいて、中には社員の奥さんと そのような関係になった事もあったらしいです。

しかし、これはあくまでも噂で、その人達は会社を辞めてしまっているので裏付けは取れませんでしたが」


人妻ばかりと言う事は、青山は他人の物を奪う事に興奮するのか。

妻も青山の、そのような欲求を満たすためだけに抱かれていたのか。

私は怒りよりも、妻の事が哀れに思えた。


「昨夜の事ですが、どうして妻はあのような状態に?」


「言い難いのですが、昨夜も奥様は青山とホテルに行きました。ただ、今までと違って、昨夜は後からもう一人男が・・・・」

私には所長の言っている意味が理解出来なかった。


「青山とホテルに行った後、別の男と会っていたと言うのですか?」

「違います・・・・・」

青山は、食事の時に酒を飲むので、いつも妻の運転で移動していた。

昨夜も食事してから妻の車でラブホテルに行き、30分ぐらいして高級外車に乗った男が入っていったが、その車と一瞬、見えた男の横顔に見覚えのあった調査員が見に行くと、その車は、妻の車が止めてある車庫の前に泊まっていたと言う。

「その男が、青山の会社に入っていくのを見掛けた事があったそうです。

そこのラブホテルはワンルームワンガレージなので、おそらく奥様達の部屋に・・・・おそらくと言うか、間違いなく奥様達と」

「つまり、3人で楽しんでいたと!」

所長はテーブルの上に二枚の写真を並べた。

一枚には青山が その男の車の助手席に乗って出て来る写真。

もう一枚は妻が自分の車で、一人で出て来る写真だった。

「男二人が先に出て、奥様が出てこられたのは30分も経ってからです」


私の脳裏に、二人の男を同時に相手している妻の姿が浮かぶ。

一人の男に乳房を弄ばれながら、もう一人の男に性器を舐められている妻。

一人の男に突かれながら、もう一人の男を口で慰めている妻。

人一倍恥ずかしがり屋で、ミニスカートすら穿いた事のなかった妻が、二人の男の前で裸体を晒した。

性には奥手で声が出てしまうのも恥ずかしく、限界まで声を出さないように我慢してしまう妻が、二人の男の前で恥ずかしい声を上げ続けていたのか。


「ラブホテルを出てからの様子を見ると、おそらく奥様は この男が来る事は知らなかったと思われます」

「青山が妻に黙って、勝手にその男を呼んだと」

「それは分かりませんが、奥様は かなりのショックを受けたのだと」


青山に対して殺意が芽生えた。しかし、このような事に慣れている所長は、私の心を見透かしていた。

「絶対に暴力はいけませんよ。ましてや犯罪になるような事は。それこそ お嬢さん達が悲しむ」

「では、どうしろと!」

「慰謝料を請求しましょう」

私は慰謝料など請求しても、社長である青山には何のダメージも与えられないと思った。

「離婚しない場合、100万取れれば良いところです。これではダメージも少ないので、奥様と離婚して500万請求しましょう」



「妻と離婚する?」

私は離婚だけは避けたかった。

私を裏切り、他の男を体内に受け入れた妻でも、正直まだ未練があった。

結婚して18年、付き合いを入れると20年の重みを、この一ヶ月あまりの出来事で捨て去る事は出来ない。

何より500万取れたとしても、そのぐらいのお金は青山にとって、痛くも痒くもないと思っていたのだ。


返事をしない私に対して、所長の方が熱くなっていた。

「離婚すると言っても、なにも永久に別れる訳ではありません。誤解を解いて、奥様に協力してもらって一旦離婚するのです。いずれまた復縁すればいい。

日本では復讐は認められていません。出来る事は、慰謝料を請求するぐらいしか無いのです」


「でも・・お金なんか青山にとっては・・・・・・」

「それがそうでも無いようですよ」


調べたところ、青山が社長を引き継いだ一年ぐらいは良かったが、怠慢経営と女遊びを含めた道楽で、経営状態は急速に悪化していると言う。

それでも青山は仕事に身を入れず、いつ倒産しても不思議ではないと言う人も。

奥さんが出て行ったのも青山の浮気が原因だという事になっているが、青山の女癖が悪いのは今に始まった事では無い。

おそらく贅沢な暮らしが出来た内は我慢出来ても、金の切れ目が縁の切れ目で我慢出来なくなったのだ。


「銀行は既に見限っていて、今まで貸していたお金の回収に回っているので、今後も融資する事は考えられません。

それでも怠慢経営と遊びをやめない青山は、他からも借りていると思われます」


その時、警察で付き添っていてくれた調査員が帰って来た。

「丁度良かった。あの男の身元が分かりました」

そう言って調査員は手帳を広げる。

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今中茂樹、54歳。

精密機器の会社の副社長で、社長は実の父親。

青山とはJC時代からの遊び仲間で、青山に泣きつかれて かなりの額を融資している。

「不況が原因なだけで、景気が回復すれば、自然と会社は持ち直すと甘く考えているようで、青山は借り入れを繰り返しています。

しかし、一代で今の会社を築いた今中の父親も馬鹿ではないので、噂では老舗で名前だけは通っている青山の会社が吸収されるのも時間の問題だと。

そうなれば経営に厳しい今中の父親は、女遊びだけが上手く、役に立たない青山は当然放り出すでしょう。

彼は個人名義の借金だけを抱えることに」


早い方が良いと言う事で、その夜、所長と調査員が来てくれることになった。

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妻は青山と会って話していたのか、定時に終わって帰って来たにしては遅かったが、それでも比較的早くに帰って来た。


「ここに座れ」

「この方達は?」


「一人は世話になったから知っているだろ」

「あなたは確か・・・・事故の時に・・・・」


「興信所の人達だ」

それを聞いた妻は顔色が変わり、立ち上がって逃げるように部屋を出て行こうとする。

「みんなで奥様を責めに来たのではありません。話だけでも聞いて下さい」

所長がそう言って青山についての資料や写真を並べると、妻は座り直して目を通す。

「嘘です!こんなの出鱈目です。社長はこのような人間ではありません」

「目を覚まして下さい。青山が誠実な人間で無い事は、昨夜の事で奥様も分かったはずだ」

そう言って所長は、青山と今中が笑いながらラブホテルから出て来る写真を見せた。

「違う・・・・私はそんな事はされていない!」

誰も何も言っていないのに、妻は今中の写真を見せられただけでそう言って、狂ったように頭を振る。

「落ち着いて下さい。それとご主人の浮気の件ですが、奥様は私どもの報告書も見せてもらいましたか?」

「いいえ・・・・・」

「ご主人は浮気などしていません」

「嘘です!」

「本当です。これは全て青山が仕組んだ事で、彼女は確かにゴミを出しに来ていて、どうみても、ご主人はその時、始めて彼女と会ったように見えました。

出張に行った時も、ロビーでの会話からも ご主人にとっては偶然だった事は明らかですし、

一緒に食事に行き、その後、彼女の部屋に行ったのは事実ですが、ご主人は15分ほどで彼女の部屋を出て、ご自分の部屋に戻られました」


「嘘です!ホテルは一部屋しかとってなくて、二人は朝まで出てこなかったと」


「お尋ねしたい事があるのですが、ゴミを出しに行くのは、いつもご主人の役目だと、青山に話した事はありませんか?それとゴミを出せる曜日なんかも。

あの日、ご主人が出張に行く事や、出張に行った時には、いつもあのホテルに泊まる事など、青山に話した事は無いですか?」


妻は黙っていたが、俯いてしまった事から思い当たる事があるようだった。





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