変わり果ててしまった妻
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しかし、一週間も経つと 妻に電話することも無くなった。
これは、妻を信用したのではなくて、妻の事を考えているのが苦しくなり、極力妻の事は考えないように逃げていたと言った方が正しい。
「仲直りしたの?」
以前のように笑顔はなくなったが、私が無関心を装い、妻が喜怒哀楽を表さない事が、私達の関係がおかしくなっている事を心配していた子供達には、良い方向に向かっていると映ったようだ。
しかし、実際は謝らない妻に対しての不信感は大きくなっていて、妻もまた 私といると以前よりも塞ぎ込んでしまって目も合わさない。
ここまでして どうして一緒にいるのだと自分でも思うが、やはり妻を諦め切れない。
私が冗談を言い、妻が優しく微笑むような暮らしはもう来ないと思っているのに。
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「来週 車が直ってきますから、仕事に出てもいいですか?」
妻は洗い物の手を止めずに突然そう言うと 一瞬振り向き、テーブルに会社名と住所や電話番号が書かれたメモを置くと また洗い物を続ける。
「好きにすればいいだろ。離婚になったら その後困るだろうし」
私は新聞を読みながら依然無関心を装っていたが、実は横目で しっかり見ていた。
「9時から4時までのパートで、休みは日曜と祝日です。20分もあれば通えるので4時半までには帰ってきます」
私は汚い人間かも知れない。
妻が働くと言った時、このような時なのに お金の計算をしていた。妻が働かなくても、私の稼ぎで何とかやっていける。
しかし、当然今までの生活水準は落さなければならない。これから娘達が進学すれば、尚更お金は必要になる。
それを私は頭の中で、家にいて自由な時間があるよりも、仕事に行っていた方が安心だからと すりかえる。
妻は4時30分までに帰って来ているのかどうか分からない。
また心配を掛けるのが嫌で、聞きたくても子供達には聞けない。
ただ私が帰って来た時には必ず家にいるので、早く帰っては来ているのだろう。
子供がいるとき以外は妻とは話さず、これが世間で言う仮面夫婦なのか。
妻も このままの生活では良くないと分かっているはずだ。しかし、依然謝る事はせず、何を考えているのかさっぱり分からない。
妻の事なら何でも分かっていると思っていた私も、妻の気持ちが分からない事で、そのような自信など遠に無くなり、徐々にストレスが溜まっていく。
それと同時に、女性に対する不信感も増す。
まだ子供が小学校だった時に、運動会で隣に妻の知り合いの可愛い奥さんが座ったことがあった。
この奥さんは とにかく大人しく控えめで、人前で話すのも あまり得意でないのか、私達夫婦の話を聞いては微笑んでいた。
そして、お弁当の時間になって子供達が来た時、私はふと不謹慎な事を考えた事がある。子供がいるという事は、この奥さんもセックスするのだと。
それは当たり前のことなのだが、その奥さんとセックスが結び付かなかった。
周りで大騒ぎしている奥さん達や煙草をふかしている奥さんからは、男に跨って髪を振り乱し、激しく腰を振っている姿が想像出来るのだが、この奥さんからは そのような姿が全く想像出来ずに、それが余計に私を興奮させた。
しかし、それは妻も同じ事で、他の男達からは大人しい妻の そのような姿は想像出来なかっただろう。
その妻が浮気した。
その妻が夫以外の男に跨って腰を振っていた。
それも二人の男と同時に。
その思いが私を女性不信にする。
会社でも、既婚の女性社員にきつく当たってしまう事がある。
妻でさえ そうなので、この女も夫以外の男に股を開いているのではないかという思いから。実際していなくても、誘われれば簡単に夫を裏切ってしまうに違いないと。
考えた事もなかった妻の裏切から、私の精神は病み始めていたのかも知れない。
そして、私は恵理を思い出していた。
私に酷い事をしたけれど、それは娘を想っての事で昼も夜も必死に働く母親。
罪悪感も無く平気で あのような事をしたのではなくて、娘の望みを叶えたい一心で、今は後悔している本来真面目な女。
しかし、最初に会った時、彼女は真っ赤なブラジャーをしていた。
男もいないのに、あのような下着を身に着けるのか。
もしかすると彼女も青山と。
身近にあのような美人で魅力的な身体をもった女がいて、青山が何もせずに放っておくだろうか。
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小料理屋に向かう彼女に車の中から声を掛けると、彼女は無視して通り過ぎようとした。
「あなたのお蔭で、私の家庭は無茶苦茶だ」
すると彼女は足を止める。
「もう許して下さい」
「もう許せ?もうって、恵理さんは俺に何の償いをした。妻の相手の名前を教えただけで罪を逃れたつもりか」
彼女はその場で女将に電話し、私の指示通りに助手席に乗ってきた。
「どこへ?」
「色々聞きたい事がある」
私は彼女への欲望を満たそうとしていたが、いざとなると罪悪感で苦しんだ。
それで罪悪感に負けないように、あえて妻が青山と行ったラブホテルに入る。
「いや!私帰ります!」
「誰にも聞かれない所で話を聞きたいだけだ。ここが駄目なら、恵理さんのアパートで話そうか?母親が何をしてお金を作ったか、娘さんには分かってしまうだろうが」
私は彼女をベッドに押し倒し、無理やりキスをしようとしていた。
「嫌です!やめて下さい!」
「暴れるな!どうせ誰にでも抱かせる身体だろ!青山にも散々抱かせた身体だろ!」
私は妻や青山と同じ所まで落ちようとしていた。無理やり犯そうとしているのだから、それ以上なのかも知れないが。
「抱かれてなんかいません。やめて下さい!」
私は服の上から、彼女の大きな乳房を掴む。
「嘘を吐け!あんな真っ赤な下着なんか着けやがって」
「あれは青山さんに指示されただけです。派手な下着であなたを誘惑しろと、お金を渡されて指示されただけ」
私は乳房を掴んでいた手は離したが、彼女が逃げないように覆い被さったままだった。
「本当に青山とは関係ないのか?」
「別れた主人以外とは、誰とも付き合った事はありません」
「青山に、何を頼まれた?」
私が彼女から降りて椅子に座ると、彼女は衣服の乱れを直してベッドに座る。
「最初は200万で柴田さんに抱かれろと言われました。
私がそのような事は出来ないと断わったら、抱かれなくてもいいから誘惑してくれと・・・・
娘の事を女将さんに相談していたから、それを聞いて知っていた青山さんは100万払うと言って」
「小料理屋で?でも女将は青山の・・・・・」
青山にとって人妻を落すのはただの遊びで、女将も何も言わなかったらしい。
これまでにも青山は、店が終わる頃に友人を連れてやって来ては、落とした人妻の自慢をしていた。
「それだけの事に、100万も200万も使うのか」
青山は、昔は一晩に200万も300万使う遊びをしていたと自慢していたらしい。苦しくなった今でも、私達とは金銭感覚が違うのだろう。
「青山から100万もらって、俺を誘ったという訳か」
「お金は友人の方が・・・・・・・」
「その友人というのは今中か?」
「どうしてそれを?まさか奥様も・・・・・・・」
今までにも、何度もこのような事を話していた事があったと言う。
ダンディーな青山が人妻を落とし、お世辞にも格好良いとは言えない今中が その間の資金を出して、あとで その女を回してもらう。
彼女は立ち上がると、服のボタンを外し始めた。
「ごめんなさい・・・・・・今夜だけで許して下さい」
しかし、私は それどころではなかった。
青山の存在が大き過ぎて、今中の事を忘れていた。
ただ青山の誘いに乗っただけで、今中には それ程の悪意は無いと思っていたが、この話が本当ならば今中の責任も大きい。
何より気になったのが今中の会社は、今中精器で、妻が勤め始めた会社の社名は佐藤精器なのだ。
私は青山の事を気にするあまり、今中の事をすっかり忘れてしまっていたが、そこが取引関係にある会社だとすれば、ただの偶然だとは考え難い。
彼女は下着だけの姿になると、急いでベッドの布団に潜り込む。
私が近付いて掛け布団を剥ぐと、彼女は恥ずかしそうに前を隠した。
「もういいから服を着てくれ。その代わり、もっと妻の事を教えてくれないか」
妻の事が気掛かりで、そのような気分ではなかったのもあったが、彼女が娼婦のような派手な下着を着けていたなら、そのまま覆い被さっていただろう。
しかし、彼女は、綿の白い下着を着けていた。
「何をお聞きになりたいのですか?」
「全てだ。恵理さんが知っていること全て」
彼女は下を向いて黙り込む。
「小料理屋で聞いた事。女将が話していた事など何でもいい。妻のことなら何でも知りたいんだ」
「気持ちは分かります。でも知れば知るほど苦しくなります。私がそうだったから」
彼女の離婚原因は、別れたご主人の浮気だったと言う。それが分かった時、彼女は全てを知りたいと思った。
いつ、どこで、どのように相手の女を抱いていたのか。その時どのような言葉を囁き、相手は どのような反応を示したのか。
それはご主人だけに止まらず、相手の女とも何度も会って問い質した。
「自分で自分の首を絞めてしまいました。どれだけ聞いても満足出来ない。聞けば更に嫉妬が増して、それ以上の事を知りたくなってしまう。地獄でした。その地獄から逃れたくて離婚を」
彼女はご主人を愛していたのだろう。絶対に許せなくて離婚したが、おそらく今でも愛している。
「このままでも地獄だ」
彼女は一度頷くと、ぽつりぽつりと話し出す。
「青山さんは何年も前から奥様を狙っていて、何度誘っても上手く逃げられてしまうが、簡単に落ちる女よりも このように真面目な女の方が、落ちた時の反応が面白いと言っていたのを覚えています」
パートから正社員にしたのも、より身近に置くためだったに違いない。
「その間、彼らは他の奥さんも狙っていましたが、落ちると何度か青山さんが抱いてから、その後 今中さんに」
「今中は いつも青山の・・・・・・・・後で?」
私は お下がりという言葉を使おうとしたが、妻も同じ状態なので使えない。
「笑い話のように話していた事があります。昔、青山さんが落とした奥さんを騙して、最初から今中さんに抱かせた事があって、その時は、婦女暴行で訴えられる寸前までいったそうです。それに懲りて、何度か青山さんが関係を持ってから今中さんが関係を持つように」
彼らは ずる賢く、散々不倫を繰り返した後では、世間にその事を知られるのが嫌で、泣き寝入りしてしまうと言っていたそうだ。
それに、初めて旦那以外の男に抱かれる相手が、全く違う男だったというショックを考えれば、散々不倫を繰り返して堕落してしまった後の方が、ショックも少ないので、遥かに愚図る事も少ないと。
確かに例え訴え出たとしても、それでは同情などしてもらえずに、被害者と言うよりも尻の軽いふしだらな不倫女と見られてしまう。
「妻と青山の事で何か聞いていないか?つまり・・・二人のセックスの・・・・」
彼女はまた俯いてしまう。
「恵理さん!」
「最初に奥様が抱かれた時、自棄になってホテルの部屋までは行ってしまいましたが、いざとなると思い直して随分抵抗されたそうです。
貞操を守ろうと嫌がる女ほど辱める甲斐があると言っていました。
快感に負けて屈服した時のギャップも堪らなかったと」
「青山は何をしたのだ」
「そこまでは・・・・・・」
「妻は私が浮気していると思っただけで、自棄になって身体を許してしまったのだろうか」
「それは分かりません。ただ青山さんは仕事に託けて二人きりになる時間を作っては、しつこく奥様を口説いていたようです。一人の男しか知らない人生で良いのかと」
彼女は、妻が青山に言い続けられた事で、私以外の男にも興味を持った事が根底にあると言いたいのだ。
しかし、それは責められない。なぜなら私も、妻以外の女性に興味が無い訳ではないのだから。
「青山さんは、奥様は柴田さんを愛していると言っていました。
だから柴田さんが奥様を裏切っていると思わせれば、逆に落し易いと考えたようです。
それと・・・・・旦那を愛している人妻の方が・・・・虐め甲斐があるとも」
現に妻は落ちた。全て青山と今中の思惑通りに。
「妻には当然 罪悪感があると思う。しかし妻は未だに謝らないんだ」
すると彼女の顔が更に曇る。
「主人と同じです。主人も最後まで謝らなかった。絶対に離婚はしたくないと言っていましたが、それでも謝らなかった」
ご主人は真面目が服を着ている様な人で、浮気の証拠が出てからも信じられなかったと言う。
「最初の頃は謝らない主人に腹を立て、何度も謝らせようとしました。しかし、主人は言ったのです。謝ってしまって非を認めたら、俺が俺ではなくなってしまうと」
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