ブタとチビの話
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101 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 11:57:46.51 ID:Omu9vydwO
最近 たーくん とおばさんは、週に2回ぐらいのペースで病院に行っていた。
つまり週に2回ぐらい たーくん はうちに遊びに来ていた。
数年前から、私が好きで集めていた絵本がある。
大人でも楽しめるタイプの絵本だった。
なかでも、台湾のジミーさんという方が描いた本が大好きだった。
何冊かある中で、2冊。
目が見えない女の子が地下の世界をさまよう『地下鉄』と、『ブルーストーン』青い石のお話。
地下鉄は私自身が苦しい時に読んでいた。
ブルーストーンは星ではないけど、宇宙や星を連想するようなお話だった。
たーくん とソファでその二つの絵本を一緒に見た。
『地下鉄』の少女は私の心そのものだった。
たーくん に《これは私だよ》と女の子を指差し、《 たーくんはこの綺麗な石だね》とブルーストーンを指差した。
大人しく覗き込んでいた たーくん は、静かに熱意のこもった目で絵本の絵を追いかけていた。
そんな顔を見ながら以前から思っていたことが、自然と頭をよぎる。
私は たーくん の中の、心の影のようなものが気になっていた。
もう聞いても大丈夫だろうか、失礼に当たらないだろうかと躊躇したが、聞こうと思った。
103 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 12:17:13.47 ID:Omu9vydwO
質問を訊ねた相手は おばさんだった。
おばさんの勤務時間が始まる前に、うちに寄って貰った。
何となく いつか私からそういう質問が来るだろう予想していた表情だった。
「どうして、病院に行かれるんでしょうか」
もうちょっと上手な聞き方もあっただろうと思ったけど、ぎこちなくこんな言い方をしてしまった。
少し間を置いてから、おばさんが話してくれた。
「父のお見舞いに行ってるの。最近は特に優れなくて…」
え?と思った。
私はてっきり、 たーくん の体に関することだと勝手に思い込んでいた…。
「それじゃ、いつもお見舞いに行ってたんですか?」
「ええ。あの子も父を慕ってるので…。でも最近行きたがらないんです」
「………」
「たぶん悪くなってるのをあの子なりに感じてるんだと思うんです」
ああ…、
何となく分かった、気がする。
あの小さい胸にどれだけの不安があったのだろう。
「 たーくん は、すごくいい子で…、私も頑張らなきゃっていつも思えて、だからあの」
お祖父さんはまだ元気だし、不謹慎だぞっと思ったけど、涙がぐ〜と込み上げてきた。
笑っていてほしい。だってすごい良い子だから。神様
私にも四つ葉があればいいのに。
私は今、誰か人のために泣いている。誰か人のために。
友達というのはこういうものか。
104 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 12:37:16.75 ID:Omu9vydwO
もう たーくん に確認することは無いと思った。
とにかく一緒にいる間は元気に遊ばせたい。
自らの人生にいまだ緊張感を持っていなかった私は、そうすることで自分の道から目を逸らしていたのかもしれない。
そんな善人じゃない。
何もしてあげられることなんてない。
貰ってるのはいつも私の方だったし。
「チャンネル変えるわよ」
母が言ってポチポチッとリモコンを押す。
わぁわぁ煩いバラエティから、N○Kニュース→教○テレビの手話ニュースに切り替わった。
最近何となく私が手話ニュースを見ているから、母もそうするようになってきた。
「ねぇ、何で私って馬鹿なんだろう?」
「脳に栄養が廻ってないからでしょ。そんなに食べておいて」
「ねぇ、何で私は耳が聞こえるの。そういうのって誰が選んでるのかな…」
と呟いたら思いっきし頭を叩かれた。
「軽々しく言うのはやめなさい。あなたも、他の人も、同じように生きてるのよ」
「…………頭回ってないね、私」
「いいじゃない、うんと悩んで苦しめば。今までそんなこともなかったでしょ!?」
「そうですね。うん」
もやもやもやもやしながら日々は過ぎて行った。
オセロとトランプのスピードで勝負するのが最近の たーくん との流行りだった。
たーくん は3年生になり豚も一つ歳を取った。
105 :名も無き被検体774号+:2012/03/25(日) 12:50:11.45 ID:aHeXaOjq0
いいかーちゃんだな
106 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 13:12:15.79 ID:Omu9vydwO
親が子を思う愛情も、男の人が女の人を愛する気持ちも いまいち分からない。
あの おしっこ事件から一年ぐらい経った時、いつもと違う出来事があった。
相変わらず お見舞いに行く日々は続いていたようだけど、ある日おばさんが迎えに来なかった。
たーくん と一緒にピノを食べながらテレビを見ていたら、インターホンが鳴った。
おじさんですって感じのおじさんが立っていた。
初めて見る たーくん のお父さんだった。
おばさんのいるコンビニに訊ねた後、私の家の名字と簡単な道筋を聞いてここまで来たらしい。
荷物をまとめて出てきた たーくん は、突然現れたお父様を他人のような目で呆然と見た後、照れ笑いをしながら靴に両足をさして飛び込んでいった。
…おおおう、何とも初めて見る 子供デースっていう たーくん の動きに驚いた。
おじさんは笑いながら たーくん の頭を片手で軽く触った。
でも たーくん に比べたら ちょっとあっけないというかなんというか(´・@・`)
そして背中に隠してた もう一方の手を出してお菓子の詰め合わせの入った大きな袋をかざした。
おお!☆ って私が喜んではいけない。
たーくん はクリスマスシーズンの玩具の会社のCMに出てくる子供のように、可愛くはしゃいでいた。
…んー、なんかあれだ。なんだろうかこの違和感は。なぬかがおかすくて、もやっとする。
じゃあねー、 たーくん !とこの頃お別れする時してたハイタッチをして、門の外で二人を送り出した。
おじさんに手を引かれて たーくん が早歩きで少し弾みながら付いていく。
何度も おじさんの顔を見上げている後ろを姿を見送って、家の中に戻った。
たーくん 身長伸びたなーー。
私の体重は増えもせず減りもせず食欲も減らない。
恐ろしいことに期間限定のバイトに味をしめた私は、また働きたくなったらでいいや〜と…
気付けば一年経ってもニートをしていた。
108 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 13:32:08.47 ID:Omu9vydwO
父といえば、我が家の父も定年退職をして日中家にいる事が多くなった。
たーくん のことはあらかじめ話していたので驚きはしなかったが、父には豚以外の人間の子供は未知生物に思えるらしく どう振る舞ってよいのかわからない様子。
たーくん は敏感に相手の気持ちが読める子だった。
ある日 台所の机で新聞を読んでいた父に、 たーくん が絵をプレゼントした。
「お父さん、こう!お礼、こうだから」
ありがとうの手話を たーくん の背後から父に伝えると、微妙に違うが なんとなくそれらしい手話をした。
小走りで居間に戻ってくる たーくん はちょっと誇らしげにニヤついていた。
父が新聞を読んでるふりをしながら じっーと見入ってるその絵には、大きな魚が一匹描かれていた
玄関の脇に置いてある道具を不思議そうに見ていた たーくん に、父が釣りをする道具だよーと教えたことがある。
かんなり前のことだった。たーくん はちゃんと覚えていた。
それから暫くして、父がさすらいの一人旅をして帰ってきた時、「坊やに…」ともみじ饅頭を私に渡してきた。
自分で渡せよ〜〜
あなたのコミュ力は確かに私が引き継いでいる。
109 :名も無き被検体774号+:2012/03/25(日) 13:45:25.92 ID:CJ5IZghy0
とうちゃんww
110 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 14:22:53.52 ID:Omu9vydwO
父と娘の関係は付かず 離れず、ベタベタしないのが我が家流だった。たーくん は それが気になるらしい。
三年生になって、遊ぶことより漢字や計算の宿題をやることが増えてきた。遊び足りなくて お姉さんはちょっと寂しい。
私の部屋のテーブルで宿題をしている たーくん の近くで、仕方ないので漫画を読むことにした。
時間を忘れて ときめいていると、いつの間にか たーくん が消えていた。
トイレかなー家の中で誘拐は無いし放っとこう(・@・´)
…と再び読みふけっていると、なぜか私の部屋に父がいた。大人になってから父を部屋に入れたことがない。
たーくん が何事も無かったように机に向かって、その真横に父が教師のようなウムムという顔で座っていた。
な、なんでここにいるの?と聞きたかったけど言えなかった。それぐらい父と娘は遠いのだよ たーくん 。
また別の日には、居間で何をしてたか忘れたけど私がぼーっとソファに座っていたら、台所から父を連れてきた。
そこまではいいが、あろうことか何故か父と私の手とり繋がせようと…した。
…やめんかいッ!とは言えずに ははははーと笑うしかなかった。
2人だけの時にチラシに《お父さんと仲良し。だから心配しないで》と書いて見せた。
しかし たーくん はいまいち納得してないご様子。
《ほんとだよ?》
疑わしげに首を傾げている…。
なんだよもう(´・@・`)
正直 私はハハハと呼んで母派なんだよ。いきなりパパハになるのは無理だよ〜
111 :名も無き被検体774号+:2012/03/25(日) 14:24:48.43 ID:Omu9vydwO
一旦昼寝します。
113 :名も無き被検体774号+:2012/03/25(日) 15:00:51.33 ID:aHeXaOjq0
乙
おやすみ〜
114 :名も無き被検体774号+:2012/03/25(日) 16:21:32.09 ID:BYS+HnwmO
なんつーほっこり話なんだ!続き楽しみにしてるよ!
117 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 21:52:49.86 ID:Omu9vydwO
秋頃になる。
たーくん が我が家に来る(つまりは お見舞いに行くのが)週に一度になり、二週間に一度になり、減って行った。
たまに来た時も、居間の たーくん がいつも座っていた場所に落ち着くなり、カバンから あのドラミちゃん色のお守りを出して装着していた。
忘れていたわけでないけれど、四つ葉もお守りも。
でも何となく… 必要としていない たーくん を見て安心していた。
当時家で してたと おばさんから聞いたことがあったが、実際にしてるのは あの2年生時以来だった。
実は たーくん は、友達や先生から見えないようなカバンの一番見えにくい所にずっと入れて持ち歩いていたらしい。
私がおばさんからお祖父さんの話を聞いてから、あえて見ないようにしてきた たーくん の不安な心がまた顔を出した。
四次元ブサイクポケットを首から下げたまま大人しく勉強をしている たーくん …。
おばさんの元に連れてく時間になっても、自分から立ち上がってすぐに行こうとしない。駄々をこねるわけではないけど、少しでも時間を遅らせたいようだった。
そんな態度からお祖父さんの具合が良くないのかもしれないと思っていた。でもおばさんには なかなか聞けなかった。
118 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 21:59:05.11 ID:Omu9vydwO
図々しいのだろうか。でも気になって心配でそうしたかった。
おばさんに自分も一緒にお見舞いに行きたいという旨を伝えた。
父と たーくん と大きめなシュークリームを食べながら、 たーくん のおじいちゃんに会っていいかなと台所のメモ用紙に書いた。
驚いたようにぱっと私を見て、少し間を空けて頷いてくれた。父の口の端にカスタードが付いていた。
…そんなこんなで病院の個室で眠っているおじいちゃんに会いに行った。
名俳優の平○満さんを20歳老けさせたような穏やかで少し頑固そうなおじいさんだった。
たーくん のためにプリンとタマゴボー○を用意していた。タマゴボー○懐かしや…。あれ嫌いな人っているのだろうか。
おばさんが私のことを紹介してくれた。
たーくん は首から下げたまま お守りをおじいさんに見せて、おじいさんも朗らかに笑ってお守りを触ってた。
すみません。それ作った犯人はこの豚です。
最近 たーくん とおばさんは、週に2回ぐらいのペースで病院に行っていた。
つまり週に2回ぐらい たーくん はうちに遊びに来ていた。
数年前から、私が好きで集めていた絵本がある。
大人でも楽しめるタイプの絵本だった。
なかでも、台湾のジミーさんという方が描いた本が大好きだった。
何冊かある中で、2冊。
目が見えない女の子が地下の世界をさまよう『地下鉄』と、『ブルーストーン』青い石のお話。
地下鉄は私自身が苦しい時に読んでいた。
ブルーストーンは星ではないけど、宇宙や星を連想するようなお話だった。
たーくん とソファでその二つの絵本を一緒に見た。
『地下鉄』の少女は私の心そのものだった。
たーくん に《これは私だよ》と女の子を指差し、《 たーくんはこの綺麗な石だね》とブルーストーンを指差した。
大人しく覗き込んでいた たーくん は、静かに熱意のこもった目で絵本の絵を追いかけていた。
そんな顔を見ながら以前から思っていたことが、自然と頭をよぎる。
私は たーくん の中の、心の影のようなものが気になっていた。
もう聞いても大丈夫だろうか、失礼に当たらないだろうかと躊躇したが、聞こうと思った。
103 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 12:17:13.47 ID:Omu9vydwO
質問を訊ねた相手は おばさんだった。
おばさんの勤務時間が始まる前に、うちに寄って貰った。
何となく いつか私からそういう質問が来るだろう予想していた表情だった。
「どうして、病院に行かれるんでしょうか」
もうちょっと上手な聞き方もあっただろうと思ったけど、ぎこちなくこんな言い方をしてしまった。
少し間を置いてから、おばさんが話してくれた。
「父のお見舞いに行ってるの。最近は特に優れなくて…」
え?と思った。
私はてっきり、 たーくん の体に関することだと勝手に思い込んでいた…。
「それじゃ、いつもお見舞いに行ってたんですか?」
「ええ。あの子も父を慕ってるので…。でも最近行きたがらないんです」
「………」
「たぶん悪くなってるのをあの子なりに感じてるんだと思うんです」
ああ…、
何となく分かった、気がする。
あの小さい胸にどれだけの不安があったのだろう。
「 たーくん は、すごくいい子で…、私も頑張らなきゃっていつも思えて、だからあの」
お祖父さんはまだ元気だし、不謹慎だぞっと思ったけど、涙がぐ〜と込み上げてきた。
笑っていてほしい。だってすごい良い子だから。神様
私にも四つ葉があればいいのに。
私は今、誰か人のために泣いている。誰か人のために。
友達というのはこういうものか。
104 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 12:37:16.75 ID:Omu9vydwO
もう たーくん に確認することは無いと思った。
とにかく一緒にいる間は元気に遊ばせたい。
自らの人生にいまだ緊張感を持っていなかった私は、そうすることで自分の道から目を逸らしていたのかもしれない。
そんな善人じゃない。
何もしてあげられることなんてない。
貰ってるのはいつも私の方だったし。
「チャンネル変えるわよ」
母が言ってポチポチッとリモコンを押す。
わぁわぁ煩いバラエティから、N○Kニュース→教○テレビの手話ニュースに切り替わった。
最近何となく私が手話ニュースを見ているから、母もそうするようになってきた。
「ねぇ、何で私って馬鹿なんだろう?」
「脳に栄養が廻ってないからでしょ。そんなに食べておいて」
「ねぇ、何で私は耳が聞こえるの。そういうのって誰が選んでるのかな…」
と呟いたら思いっきし頭を叩かれた。
「軽々しく言うのはやめなさい。あなたも、他の人も、同じように生きてるのよ」
「…………頭回ってないね、私」
「いいじゃない、うんと悩んで苦しめば。今までそんなこともなかったでしょ!?」
「そうですね。うん」
もやもやもやもやしながら日々は過ぎて行った。
オセロとトランプのスピードで勝負するのが最近の たーくん との流行りだった。
たーくん は3年生になり豚も一つ歳を取った。
105 :名も無き被検体774号+:2012/03/25(日) 12:50:11.45 ID:aHeXaOjq0
いいかーちゃんだな
106 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 13:12:15.79 ID:Omu9vydwO
親が子を思う愛情も、男の人が女の人を愛する気持ちも いまいち分からない。
あの おしっこ事件から一年ぐらい経った時、いつもと違う出来事があった。
相変わらず お見舞いに行く日々は続いていたようだけど、ある日おばさんが迎えに来なかった。
たーくん と一緒にピノを食べながらテレビを見ていたら、インターホンが鳴った。
おじさんですって感じのおじさんが立っていた。
初めて見る たーくん のお父さんだった。
おばさんのいるコンビニに訊ねた後、私の家の名字と簡単な道筋を聞いてここまで来たらしい。
荷物をまとめて出てきた たーくん は、突然現れたお父様を他人のような目で呆然と見た後、照れ笑いをしながら靴に両足をさして飛び込んでいった。
…おおおう、何とも初めて見る 子供デースっていう たーくん の動きに驚いた。
おじさんは笑いながら たーくん の頭を片手で軽く触った。
でも たーくん に比べたら ちょっとあっけないというかなんというか(´・@・`)
そして背中に隠してた もう一方の手を出してお菓子の詰め合わせの入った大きな袋をかざした。
おお!☆ って私が喜んではいけない。
たーくん はクリスマスシーズンの玩具の会社のCMに出てくる子供のように、可愛くはしゃいでいた。
…んー、なんかあれだ。なんだろうかこの違和感は。なぬかがおかすくて、もやっとする。
じゃあねー、 たーくん !とこの頃お別れする時してたハイタッチをして、門の外で二人を送り出した。
おじさんに手を引かれて たーくん が早歩きで少し弾みながら付いていく。
何度も おじさんの顔を見上げている後ろを姿を見送って、家の中に戻った。
たーくん 身長伸びたなーー。
私の体重は増えもせず減りもせず食欲も減らない。
恐ろしいことに期間限定のバイトに味をしめた私は、また働きたくなったらでいいや〜と…
気付けば一年経ってもニートをしていた。
108 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 13:32:08.47 ID:Omu9vydwO
父といえば、我が家の父も定年退職をして日中家にいる事が多くなった。
たーくん のことはあらかじめ話していたので驚きはしなかったが、父には豚以外の人間の子供は未知生物に思えるらしく どう振る舞ってよいのかわからない様子。
たーくん は敏感に相手の気持ちが読める子だった。
ある日 台所の机で新聞を読んでいた父に、 たーくん が絵をプレゼントした。
「お父さん、こう!お礼、こうだから」
ありがとうの手話を たーくん の背後から父に伝えると、微妙に違うが なんとなくそれらしい手話をした。
小走りで居間に戻ってくる たーくん はちょっと誇らしげにニヤついていた。
父が新聞を読んでるふりをしながら じっーと見入ってるその絵には、大きな魚が一匹描かれていた
玄関の脇に置いてある道具を不思議そうに見ていた たーくん に、父が釣りをする道具だよーと教えたことがある。
かんなり前のことだった。たーくん はちゃんと覚えていた。
それから暫くして、父がさすらいの一人旅をして帰ってきた時、「坊やに…」ともみじ饅頭を私に渡してきた。
自分で渡せよ〜〜
あなたのコミュ力は確かに私が引き継いでいる。
109 :名も無き被検体774号+:2012/03/25(日) 13:45:25.92 ID:CJ5IZghy0
とうちゃんww
110 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 14:22:53.52 ID:Omu9vydwO
父と娘の関係は付かず 離れず、ベタベタしないのが我が家流だった。たーくん は それが気になるらしい。
三年生になって、遊ぶことより漢字や計算の宿題をやることが増えてきた。遊び足りなくて お姉さんはちょっと寂しい。
私の部屋のテーブルで宿題をしている たーくん の近くで、仕方ないので漫画を読むことにした。
時間を忘れて ときめいていると、いつの間にか たーくん が消えていた。
トイレかなー家の中で誘拐は無いし放っとこう(・@・´)
…と再び読みふけっていると、なぜか私の部屋に父がいた。大人になってから父を部屋に入れたことがない。
たーくん が何事も無かったように机に向かって、その真横に父が教師のようなウムムという顔で座っていた。
な、なんでここにいるの?と聞きたかったけど言えなかった。それぐらい父と娘は遠いのだよ たーくん 。
また別の日には、居間で何をしてたか忘れたけど私がぼーっとソファに座っていたら、台所から父を連れてきた。
そこまではいいが、あろうことか何故か父と私の手とり繋がせようと…した。
…やめんかいッ!とは言えずに ははははーと笑うしかなかった。
2人だけの時にチラシに《お父さんと仲良し。だから心配しないで》と書いて見せた。
しかし たーくん はいまいち納得してないご様子。
《ほんとだよ?》
疑わしげに首を傾げている…。
なんだよもう(´・@・`)
正直 私はハハハと呼んで母派なんだよ。いきなりパパハになるのは無理だよ〜
111 :名も無き被検体774号+:2012/03/25(日) 14:24:48.43 ID:Omu9vydwO
一旦昼寝します。
113 :名も無き被検体774号+:2012/03/25(日) 15:00:51.33 ID:aHeXaOjq0
乙
おやすみ〜
114 :名も無き被検体774号+:2012/03/25(日) 16:21:32.09 ID:BYS+HnwmO
なんつーほっこり話なんだ!続き楽しみにしてるよ!
117 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 21:52:49.86 ID:Omu9vydwO
秋頃になる。
たーくん が我が家に来る(つまりは お見舞いに行くのが)週に一度になり、二週間に一度になり、減って行った。
たまに来た時も、居間の たーくん がいつも座っていた場所に落ち着くなり、カバンから あのドラミちゃん色のお守りを出して装着していた。
忘れていたわけでないけれど、四つ葉もお守りも。
でも何となく… 必要としていない たーくん を見て安心していた。
当時家で してたと おばさんから聞いたことがあったが、実際にしてるのは あの2年生時以来だった。
実は たーくん は、友達や先生から見えないようなカバンの一番見えにくい所にずっと入れて持ち歩いていたらしい。
私がおばさんからお祖父さんの話を聞いてから、あえて見ないようにしてきた たーくん の不安な心がまた顔を出した。
四次元ブサイクポケットを首から下げたまま大人しく勉強をしている たーくん …。
おばさんの元に連れてく時間になっても、自分から立ち上がってすぐに行こうとしない。駄々をこねるわけではないけど、少しでも時間を遅らせたいようだった。
そんな態度からお祖父さんの具合が良くないのかもしれないと思っていた。でもおばさんには なかなか聞けなかった。
118 :1 ◆yq3nyLskLY :2012/03/25(日) 21:59:05.11 ID:Omu9vydwO
図々しいのだろうか。でも気になって心配でそうしたかった。
おばさんに自分も一緒にお見舞いに行きたいという旨を伝えた。
父と たーくん と大きめなシュークリームを食べながら、 たーくん のおじいちゃんに会っていいかなと台所のメモ用紙に書いた。
驚いたようにぱっと私を見て、少し間を空けて頷いてくれた。父の口の端にカスタードが付いていた。
…そんなこんなで病院の個室で眠っているおじいちゃんに会いに行った。
名俳優の平○満さんを20歳老けさせたような穏やかで少し頑固そうなおじいさんだった。
たーくん のためにプリンとタマゴボー○を用意していた。タマゴボー○懐かしや…。あれ嫌いな人っているのだろうか。
おばさんが私のことを紹介してくれた。
たーくん は首から下げたまま お守りをおじいさんに見せて、おじいさんも朗らかに笑ってお守りを触ってた。
すみません。それ作った犯人はこの豚です。
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