机の上に予言が書いてあった。
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23 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:41:10.70 ID:7wm2QxL+0.net
「予知、見たの?」
至極単純な質問だった。ただ、力がこもってしまった。
目の前にいるこの子が、僕の楽しみを奪った本人だと思うと、腹が立ってしまったのだ。
こうなることは予想できていた。
だから身構えていたつもりだった。彼女に会っても、怒らずに ただ感謝しようと。
だけど、そうはいかなかった。
24 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:41:43.42 ID:7wm2QxL+0.net
もちろん本人は人助けのつもりだろう。助けられる人がいるなら助けたい、そんな人なのだろう。
僕だって逆の立場ならきっと同じ事をしたと思う。でもこの時の僕にはそんな冷静な頭はなかったんだ。
僕の玩具を、非日常を奪ったこいつがただただ憎いと思った。
子供だったんだな。フィクションやノンフィクションの物語をたくさん読んで肥えた頭は、現実に、非現実が起きて舞い上がってしまい、正常な判断がつかなかったんだ。
一度、僕の非日常を元の日常に変えた彼女を前にして喋り出してしまった僕は、止まらなかった。
余計な事をした、とか、邪魔だ、とか。覚えていないだけで、もっと酷い事も言ったと思う。
沸騰しきった頭の血が冷めた頃には、目の前に泣いている彼女がいた。
嗚咽を漏らし、両の手の平で目元を擦りながら、彼女はただ「ごめんなさい」と一言口にして、その場を小走りで去っていった。
25 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:44:48.05 ID:7wm2QxL+0.net
怒りを吐き出して冷静さを取り戻した僕は、罪悪感に包まれた。
今、君が想像しているような罪悪感よりもっと、何十倍も。
親が病気になった後に反抗期の頃を思い出したような気分じゃないかな。
とにかく、謝りたかった。すぐにでも後を追って彼女の前で頭を地面につけて、誠意を見せたかった。
駆け出しそうになった足を既の所で止めた。今追って、謝ってどうなるというのだろう。
相良さんはまだ頭の整理ができていないはずだ。突然目の前に現れた僕に、助けていたはずの相手に言われもない暴言を吐かれたのだ。
26 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:45:15.02 ID:7wm2QxL+0.net
仮に謝ったとしても、何故暴言を吐かれたのか、何故謝られたのか、理解できるはずもない。
謝るなら明日、そう、明日にしよう。
そう自分に言い聞かせながら、目的である予言の書いてある机に向かって歩く。
誰もいない薄暗い教室の電気をつけて、ホワイトアウト現象に少し目を眩ませながら自分の机を見てみると、そこには『ともだちをなくす』と書いてあった。
外から部活動を終えた集団が帰宅する声が聞こえてくる。
いやにベタついた汗が頬を撫でた。
27 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:46:57.78 ID:7wm2QxL+0.net
足早に帰宅した僕は母に晩御飯はいらないとだけ伝えて、自室に籠もった。
大きく深呼吸をして、心を落ち着かせる。
今抱えている問題は二つ。
28 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:47:24.97 ID:7wm2QxL+0.net
一つ目は、相良さん。
一方的に感情をぶつけてしまった事による罪悪感が大きい。肝心の聞きたい事も聞く事ができずに、ただ泣かせてしまった。まずはこちらを優先すべきだろう。
二つ目は、予言だ。
今までの予言で一番タチが悪い。友達を失くすだって?ただでさえ二人程しか友達のいない僕が?
確かに最近僕は予言に夢中になって一人でいる時間が増えていたが、そんな事で友達をやめるほど脆い関係ではない。中学からの同級生なのだ。
受験の時は三人で同じ高校を選択し、三人で勉強をして、三人で合格したかけがえのない友達。失う訳にはいかない。
学校を休むのは得策ではないだろう。休んでいる間に二人が喧嘩をしてそのまま……という可能性も考えられる。
万が一学校で僕が何かをやらかしても、それを弁解するだけの頭は持っているし、ちょっとやそっとの事であいつらが縁を切るまで怒るとは思えない。
29 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:50:16.68 ID:7wm2QxL+0.net
とにかく、何かが起きてみないことには分からない。念には念を入れたいのが本音ではあるのだが。
ふと思い立った。相良さんだ。
今まで何度も僕の予言を覆してきたその人のことを思い出した。
何とか力を貸してもらえないだろうか。あんな事をしてしまった後に都合がいいと思われてしまいそうだが、何振りかまってもいられない。
もしかすると相良さんには、予言を覆す決定的な何かを持っているのかもしれない。
朝一番に学校へ行って相良さんを待とう。そしてすぐにでも謝って、相良さんの知っている事を聞いて、僕の知っている事も話す。そして協力してもらえるように頼もう。
一通り明日のスケジュールを決めた後、頭をフル回転させて疲れた僕の脳はすぐに睡眠を欲しがり、制服を脱いで寝間着に着替えてそのまま倒れるように眠った。
30 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:50:42.59 ID:7wm2QxL+0.net
次の日、相良さんは思ったよりも早く登校してきた。
いつもよりも一時間は早く教室にいた僕は、相良さんがくるまでの間ずっと本を読んでいた。
普段僕は物を借りるという事をしない。何かを借りるというのは、なんだか居心地が悪くて好きじゃなかった。
しかし どうしようもなく暇だったので、仕方なく図書室から昨日の本を借りてきたのだ。
程なくして、廊下から足音が聞こえてきた。
相良さんの教室は僕の教室よりもう一つ奥にある。その教室に向かうには、僕の教室の前を通らないといけない具合だ。
教室のドアの小窓から姿を確認して足音の正体が相良さんだと分かると、僕はすぐに教室を出て声をかけた。
31 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:52:43.17 ID:7wm2QxL+0.net
「相良さん」と声をかけると、彼女はびっくりした顔でこちらを見た。この時間に人がいる事に純粋に驚いているのだろう。
「昨日はごめん」
謝罪の言葉はすぐにでた。周りに人目がなかった事もあるし、罪悪感から早く逃れたかったというのもある。
深々と下げた僕の姿にまた驚いたのか、相良さんは「え」と一言だけ声を漏らして、それからすぐに微笑んだ。
「気にしていないよ。私がお節介だったんだもの。あるよね、ありがた迷惑って」
彼女は口元に左手を寄せて、くすくすと笑った。
32 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:53:03.13 ID:7wm2QxL+0.net
その姿を見て、僕は一気に救われたような気分になった。それと同時に、昨日の自分を心から恥じた。
謝って許してもらえるだろうか、僕が言った酷い言葉の何倍も罵倒されるのじゃないか。そんな考えを持っていた事を恥じた。
この人はそんな人じゃない。ただ本当に、純粋無垢に、僕を救おうとしてくれていたのだ。
顔と胸が熱くなるのを感じた。
33 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:55:20.16 ID:7wm2QxL+0.net
安堵した所で、昨晩の予言を思い出す。そう、まだ問題は残っているのだ。
「どうしたの?」そんな僕の青い顔をみた彼女は、優しく問いかけてきた。
僕は知っている事の全てを話して、その後に相良さんの話も聞いた。
どうやら、相良さんは僕の思った通り、僕の予言を見ていたようだった。
ある日の放課後、僕のクラスメイトに用があったようで、僕の教室で その友達を待っていたらしい。その時にたまたま見つけたと。
34 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:55:40.06 ID:7wm2QxL+0.net
最初は僕がいじめにあっていると思った、と言っていた。そうだろうな、僕もそう思ったんだし。
相良さんは それが予言であると気づくまでにそう時間はかからなかったようで、意地悪な神様に細やかな反抗をしようと企てた。僕の失う物を、失わないように努力したそうだ。
予言には法則性があるらしく、何かを失うのは四度ある休み時間か、放課後のどこからしい。僕は全く気がつかなかった。
その時間を少し注意して見張っていれば、予言を覆すのは容易い、と彼女は得意げに話していた。
しかし、僕が昨日の予言を伝えると、彼女の顔は一変して白くなった。元々とても白い顔ではあったが、もっと白く。その時 僕は何か違和感を覚えた。
今までの予言は全て物に対してのものだった。だが今回は違う。人の心だ。机の下を転がったペンを拾って終わりではない。そう簡単にはいかないのだ。
35 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:56:23.11 ID:7wm2QxL+0.net
昨晩考えていた計画を相良さんに伝えると、少し難しい顔をして両の手を組み、考え事をし始めた。
僕の計画とは、なるべく友達二人と会話をするという単純なものだった。
相良さんの言う予言の法則を組み合わせて考えると、休み時間と放課後に不自然じゃない程度の会話をする。会話をすれば、雰囲気から怒っているかどうかが分かるはずだ。
会話の途中で空気が悪くなったら、すぐにでも その場を離れればいい。予言の効力は今日までなのだから、今日だけやり過ごせばいい。
僕も計画の細かい所まで考えていると、難しい顔をしていた相良さんが急に笑顔になり、また左手を口元に寄せて くすくすと笑い始めた。
36 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:59:21.50 ID:7wm2QxL+0.net
「どうしたの?」
不思議に思って声をかけると、微笑だった相良さんは大きな声で笑い始めた。
あははは、と綺麗に笑う彼女を呆然と眺めていると、ようやく一息ついたようで、事のあらましを話してくれた。
「ふぅ……ごめんごめん。いやさ、簡単な事を思いついちゃったよ」
簡単な事……。なんだろう。必死に頭を動かしても、僕の頭には計画よりいい案が浮かばなかった。
「予言通りにしちゃおうよ」
まだ少し笑いの含む声で、彼女は言った。
37 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:59:50.92 ID:7wm2QxL+0.net
「友達を失えってこと?」
彼女としばらく話してみて、悪ふざけで そんな事を言う人じゃないというのは分かっていた。何か考えがあるのだろう。僕は彼女の言葉の続きを待った。
「私と君はもう友達だよね?」
唐突だった。友達という定義はよく分からないが、予言の事を話したのは彼女が初めてだし、僕を助けてくれていたのも彼女だし。
「もちろん、相良さんさえよければ」
うん、ならもう安心だ。といって彼女は僕の手を握った。
「付き合っちゃおう、私達」
38 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 05:02:49.37 ID:7wm2QxL+0.net
突然の事に困惑した。
女の子の友達もろくに出来たことのない僕が、こんな突然に、それもこんなに可愛い子と……?
願ったり叶ったりだが、僕の頭には疑問が絶えなかった。
「待って。突然過ぎるし、しかもそれと予言、どう関係が……」
言いながらはっとした。そうか。
「気づいた? 予言を覆すのが難しいなら、予言通りにしちゃえばいいんだよ。友達を失って、彼女ができる」
一石二鳥じゃない? と彼女は微笑んだ。
39 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 05:03:19.07 ID:7wm2QxL+0.net
疑問が解消されたのと同時に、彼女の頭の回転の早さに感動した。
彼女が成績トップだった事を知るのは、もっと後になる。
僕はといえば、まだ色々とこんがらがっていて、脳の処理が追いついていなかった。
「それにね。私、前からずっと気になってたんだよ、君の事。そうじゃなきゃ、助けてあげようなんて思わないよ」
脳の処理よりも先に、幸福感が身を包んだ。
幸運というのはこういう事を言うのだろう。どん底に落ちた昨晩に比べ、その時の僕は天に昇るような気分だった。
40 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 05:05:51.90 ID:7wm2QxL+0.net
「ごめん……なんかまだよく分かってないんだけど……よろしくお願いします」
彼女は「なにそれ」といってまた笑い出した。
その姿につられて、僕も笑い出す。
顎が痛くなってきて、目に涙が溜まり始めた頃、僕らは手を繋いだ。
「なんか、よく分かんないけど」
右手で彼女の左手を握って、左手で頬をぽりぽりと掻く。
「神様も、お節介だね」
左手で僕の右手を握る彼女は、そういってまたくすくすと微笑んだ。
教室の予言の机に向かって歩く僕達の足音は、窓の外から聞こえてくる冬の音に重なった。
「予知、見たの?」
至極単純な質問だった。ただ、力がこもってしまった。
目の前にいるこの子が、僕の楽しみを奪った本人だと思うと、腹が立ってしまったのだ。
こうなることは予想できていた。
だから身構えていたつもりだった。彼女に会っても、怒らずに ただ感謝しようと。
だけど、そうはいかなかった。
24 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:41:43.42 ID:7wm2QxL+0.net
もちろん本人は人助けのつもりだろう。助けられる人がいるなら助けたい、そんな人なのだろう。
僕だって逆の立場ならきっと同じ事をしたと思う。でもこの時の僕にはそんな冷静な頭はなかったんだ。
僕の玩具を、非日常を奪ったこいつがただただ憎いと思った。
子供だったんだな。フィクションやノンフィクションの物語をたくさん読んで肥えた頭は、現実に、非現実が起きて舞い上がってしまい、正常な判断がつかなかったんだ。
一度、僕の非日常を元の日常に変えた彼女を前にして喋り出してしまった僕は、止まらなかった。
余計な事をした、とか、邪魔だ、とか。覚えていないだけで、もっと酷い事も言ったと思う。
沸騰しきった頭の血が冷めた頃には、目の前に泣いている彼女がいた。
嗚咽を漏らし、両の手の平で目元を擦りながら、彼女はただ「ごめんなさい」と一言口にして、その場を小走りで去っていった。
25 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:44:48.05 ID:7wm2QxL+0.net
怒りを吐き出して冷静さを取り戻した僕は、罪悪感に包まれた。
今、君が想像しているような罪悪感よりもっと、何十倍も。
親が病気になった後に反抗期の頃を思い出したような気分じゃないかな。
とにかく、謝りたかった。すぐにでも後を追って彼女の前で頭を地面につけて、誠意を見せたかった。
駆け出しそうになった足を既の所で止めた。今追って、謝ってどうなるというのだろう。
相良さんはまだ頭の整理ができていないはずだ。突然目の前に現れた僕に、助けていたはずの相手に言われもない暴言を吐かれたのだ。
26 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:45:15.02 ID:7wm2QxL+0.net
仮に謝ったとしても、何故暴言を吐かれたのか、何故謝られたのか、理解できるはずもない。
謝るなら明日、そう、明日にしよう。
そう自分に言い聞かせながら、目的である予言の書いてある机に向かって歩く。
誰もいない薄暗い教室の電気をつけて、ホワイトアウト現象に少し目を眩ませながら自分の机を見てみると、そこには『ともだちをなくす』と書いてあった。
外から部活動を終えた集団が帰宅する声が聞こえてくる。
いやにベタついた汗が頬を撫でた。
27 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:46:57.78 ID:7wm2QxL+0.net
足早に帰宅した僕は母に晩御飯はいらないとだけ伝えて、自室に籠もった。
大きく深呼吸をして、心を落ち着かせる。
今抱えている問題は二つ。
28 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:47:24.97 ID:7wm2QxL+0.net
一つ目は、相良さん。
一方的に感情をぶつけてしまった事による罪悪感が大きい。肝心の聞きたい事も聞く事ができずに、ただ泣かせてしまった。まずはこちらを優先すべきだろう。
二つ目は、予言だ。
今までの予言で一番タチが悪い。友達を失くすだって?ただでさえ二人程しか友達のいない僕が?
確かに最近僕は予言に夢中になって一人でいる時間が増えていたが、そんな事で友達をやめるほど脆い関係ではない。中学からの同級生なのだ。
受験の時は三人で同じ高校を選択し、三人で勉強をして、三人で合格したかけがえのない友達。失う訳にはいかない。
学校を休むのは得策ではないだろう。休んでいる間に二人が喧嘩をしてそのまま……という可能性も考えられる。
万が一学校で僕が何かをやらかしても、それを弁解するだけの頭は持っているし、ちょっとやそっとの事であいつらが縁を切るまで怒るとは思えない。
29 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:50:16.68 ID:7wm2QxL+0.net
とにかく、何かが起きてみないことには分からない。念には念を入れたいのが本音ではあるのだが。
ふと思い立った。相良さんだ。
今まで何度も僕の予言を覆してきたその人のことを思い出した。
何とか力を貸してもらえないだろうか。あんな事をしてしまった後に都合がいいと思われてしまいそうだが、何振りかまってもいられない。
もしかすると相良さんには、予言を覆す決定的な何かを持っているのかもしれない。
朝一番に学校へ行って相良さんを待とう。そしてすぐにでも謝って、相良さんの知っている事を聞いて、僕の知っている事も話す。そして協力してもらえるように頼もう。
一通り明日のスケジュールを決めた後、頭をフル回転させて疲れた僕の脳はすぐに睡眠を欲しがり、制服を脱いで寝間着に着替えてそのまま倒れるように眠った。
30 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:50:42.59 ID:7wm2QxL+0.net
次の日、相良さんは思ったよりも早く登校してきた。
いつもよりも一時間は早く教室にいた僕は、相良さんがくるまでの間ずっと本を読んでいた。
普段僕は物を借りるという事をしない。何かを借りるというのは、なんだか居心地が悪くて好きじゃなかった。
しかし どうしようもなく暇だったので、仕方なく図書室から昨日の本を借りてきたのだ。
程なくして、廊下から足音が聞こえてきた。
相良さんの教室は僕の教室よりもう一つ奥にある。その教室に向かうには、僕の教室の前を通らないといけない具合だ。
教室のドアの小窓から姿を確認して足音の正体が相良さんだと分かると、僕はすぐに教室を出て声をかけた。
31 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:52:43.17 ID:7wm2QxL+0.net
「相良さん」と声をかけると、彼女はびっくりした顔でこちらを見た。この時間に人がいる事に純粋に驚いているのだろう。
「昨日はごめん」
謝罪の言葉はすぐにでた。周りに人目がなかった事もあるし、罪悪感から早く逃れたかったというのもある。
深々と下げた僕の姿にまた驚いたのか、相良さんは「え」と一言だけ声を漏らして、それからすぐに微笑んだ。
「気にしていないよ。私がお節介だったんだもの。あるよね、ありがた迷惑って」
彼女は口元に左手を寄せて、くすくすと笑った。
32 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:53:03.13 ID:7wm2QxL+0.net
その姿を見て、僕は一気に救われたような気分になった。それと同時に、昨日の自分を心から恥じた。
謝って許してもらえるだろうか、僕が言った酷い言葉の何倍も罵倒されるのじゃないか。そんな考えを持っていた事を恥じた。
この人はそんな人じゃない。ただ本当に、純粋無垢に、僕を救おうとしてくれていたのだ。
顔と胸が熱くなるのを感じた。
33 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:55:20.16 ID:7wm2QxL+0.net
安堵した所で、昨晩の予言を思い出す。そう、まだ問題は残っているのだ。
「どうしたの?」そんな僕の青い顔をみた彼女は、優しく問いかけてきた。
僕は知っている事の全てを話して、その後に相良さんの話も聞いた。
どうやら、相良さんは僕の思った通り、僕の予言を見ていたようだった。
ある日の放課後、僕のクラスメイトに用があったようで、僕の教室で その友達を待っていたらしい。その時にたまたま見つけたと。
34 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:55:40.06 ID:7wm2QxL+0.net
最初は僕がいじめにあっていると思った、と言っていた。そうだろうな、僕もそう思ったんだし。
相良さんは それが予言であると気づくまでにそう時間はかからなかったようで、意地悪な神様に細やかな反抗をしようと企てた。僕の失う物を、失わないように努力したそうだ。
予言には法則性があるらしく、何かを失うのは四度ある休み時間か、放課後のどこからしい。僕は全く気がつかなかった。
その時間を少し注意して見張っていれば、予言を覆すのは容易い、と彼女は得意げに話していた。
しかし、僕が昨日の予言を伝えると、彼女の顔は一変して白くなった。元々とても白い顔ではあったが、もっと白く。その時 僕は何か違和感を覚えた。
今までの予言は全て物に対してのものだった。だが今回は違う。人の心だ。机の下を転がったペンを拾って終わりではない。そう簡単にはいかないのだ。
35 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:56:23.11 ID:7wm2QxL+0.net
昨晩考えていた計画を相良さんに伝えると、少し難しい顔をして両の手を組み、考え事をし始めた。
僕の計画とは、なるべく友達二人と会話をするという単純なものだった。
相良さんの言う予言の法則を組み合わせて考えると、休み時間と放課後に不自然じゃない程度の会話をする。会話をすれば、雰囲気から怒っているかどうかが分かるはずだ。
会話の途中で空気が悪くなったら、すぐにでも その場を離れればいい。予言の効力は今日までなのだから、今日だけやり過ごせばいい。
僕も計画の細かい所まで考えていると、難しい顔をしていた相良さんが急に笑顔になり、また左手を口元に寄せて くすくすと笑い始めた。
36 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:59:21.50 ID:7wm2QxL+0.net
「どうしたの?」
不思議に思って声をかけると、微笑だった相良さんは大きな声で笑い始めた。
あははは、と綺麗に笑う彼女を呆然と眺めていると、ようやく一息ついたようで、事のあらましを話してくれた。
「ふぅ……ごめんごめん。いやさ、簡単な事を思いついちゃったよ」
簡単な事……。なんだろう。必死に頭を動かしても、僕の頭には計画よりいい案が浮かばなかった。
「予言通りにしちゃおうよ」
まだ少し笑いの含む声で、彼女は言った。
37 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 04:59:50.92 ID:7wm2QxL+0.net
「友達を失えってこと?」
彼女としばらく話してみて、悪ふざけで そんな事を言う人じゃないというのは分かっていた。何か考えがあるのだろう。僕は彼女の言葉の続きを待った。
「私と君はもう友達だよね?」
唐突だった。友達という定義はよく分からないが、予言の事を話したのは彼女が初めてだし、僕を助けてくれていたのも彼女だし。
「もちろん、相良さんさえよければ」
うん、ならもう安心だ。といって彼女は僕の手を握った。
「付き合っちゃおう、私達」
38 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 05:02:49.37 ID:7wm2QxL+0.net
突然の事に困惑した。
女の子の友達もろくに出来たことのない僕が、こんな突然に、それもこんなに可愛い子と……?
願ったり叶ったりだが、僕の頭には疑問が絶えなかった。
「待って。突然過ぎるし、しかもそれと予言、どう関係が……」
言いながらはっとした。そうか。
「気づいた? 予言を覆すのが難しいなら、予言通りにしちゃえばいいんだよ。友達を失って、彼女ができる」
一石二鳥じゃない? と彼女は微笑んだ。
39 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 05:03:19.07 ID:7wm2QxL+0.net
疑問が解消されたのと同時に、彼女の頭の回転の早さに感動した。
彼女が成績トップだった事を知るのは、もっと後になる。
僕はといえば、まだ色々とこんがらがっていて、脳の処理が追いついていなかった。
「それにね。私、前からずっと気になってたんだよ、君の事。そうじゃなきゃ、助けてあげようなんて思わないよ」
脳の処理よりも先に、幸福感が身を包んだ。
幸運というのはこういう事を言うのだろう。どん底に落ちた昨晩に比べ、その時の僕は天に昇るような気分だった。
40 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/07/16(木) 05:05:51.90 ID:7wm2QxL+0.net
「ごめん……なんかまだよく分かってないんだけど……よろしくお願いします」
彼女は「なにそれ」といってまた笑い出した。
その姿につられて、僕も笑い出す。
顎が痛くなってきて、目に涙が溜まり始めた頃、僕らは手を繋いだ。
「なんか、よく分かんないけど」
右手で彼女の左手を握って、左手で頬をぽりぽりと掻く。
「神様も、お節介だね」
左手で僕の右手を握る彼女は、そういってまたくすくすと微笑んだ。
教室の予言の机に向かって歩く僕達の足音は、窓の外から聞こえてくる冬の音に重なった。
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