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十年前から電話がかかってきた
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189 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:19:36.60 ID:3zc+EWgf.net
彼女の告白は成功したのか聞きたいのに、言葉が出なかった。

どんな声で、どんな風に聞けばいいのかわからない。

また怪物が出てきそうだ。



190 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:19:54.86 ID:3zc+EWgf.net
「フラれちゃいました。やっぱりうまくいきませんね」

俺が何も言えないでいると、彼女が精一杯取り繕ったかのような声でそう言った。

それを聞いた瞬間、正直に言うと俺は安心したんだ。

心の底からホッとした。

それは最低な感情で、でも怪物はそんな感情でしか去ってはくれなかった。



191 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:20:27.49 ID:3zc+EWgf.net
「そっか、俺もだよ。本当難しいよな」

何言ってるんだ俺は。告白することすらしなかったくせに。

俺にそんなことを言う資格なんかない、彼女と話す資格なんかないんだ。



192 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:20:43.83 ID:3zc+EWgf.net
「本当ですね。さくらんぼ作戦失敗です」

「そうだな。こういう時、あいつがいてくれると気持ちが軽くなるんだろうな」

「あいつって、前に行ってたタイムカプセルの人ですか?」

「ああ、あいつならなんとかしてくれる気がするんだ」



193 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:21:03.67 ID:3zc+EWgf.net
「そうですか。でも、タイムカプセルって面白そうですよね。私もやってみようかな」

「いいんじゃない。何入れるの?」

「私、日記書いてるんですよ。だから今日のこととか書いて、それを何年かたった時に見て懐かしむんです」

「そっか」





194 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:21:20.83 ID:3zc+EWgf.net
なんでもないような話をひたすら続けた。

お互い会話が途切れないように、ずっと話し続けた。

多分、二人とも分かってたんだと思う。

会話が途切れたら何が起こるかを。



195 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:21:47.42 ID:3zc+EWgf.net
そしてその時が訪れた。

不思議な沈黙。

今まで焦るように話してたのに、急に静寂が場を支配した。

お互いが探り合い、話し始めようとする。



196 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:22:05.66 ID:3zc+EWgf.net
「あのさ」

「あの」

二つの声が重なった。



197 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:22:25.79 ID:3zc+EWgf.net
「あー、ごめん。先どうぞ」

「すみません。そちらからどうぞ」

また重なる。

「いいよ。君から話して」

俺は先に話すのが怖くて逃げた。



198 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:26:02.64 ID:4ZfHDWbX.net
「じゃあ、あの……すみません、私嘘つきました。本当は告白なんかしてません、できませんでした」

なんとなくわかってた。

自分がそうだったからわかるんだ。

あの喋り方、あの雰囲気は前に進めなかった人のものだ。

でも、俺はそれを責めようとは思わない。

いや、責める資格なんかないんだ。

だって俺は、きっと彼女よりもひどい理由で告白ができなかったんだから。



199 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:26:22.70 ID:4ZfHDWbX.net
「うん、ごめん俺も……俺も告白してない。あと一言、一言だせばいいとこで日和ったんだ。怖くなった。本当、ダメだな」

そうだ、本当に俺はダメなんだ。

彼女に先に話させて、安心してから自分も話す。

そして その話した内容すら嘘なんだ。

本当はそんな理由なんかじゃない。

でも、それを言おうともしないんだ。

本当にずるい。



200 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:26:43.16 ID:4ZfHDWbX.net
「あー、やっぱ難しいな。勇気ってそう簡単に出ないよな。失敗したらとか考えちゃうと、怖くて踏み出せない」

「…………」

返事は返ってこなかった。

沈黙は怖い。

だから、俺は話すのをやめなかった。

一人で話し続けた。



201 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:27:01.38 ID:4ZfHDWbX.net
「あのっ!」

俺の声を遮って彼女が大きな声を出した。

「違うんです……私、違うんです」

「…………」

今度は俺が黙る番だった。

「私が……私が告白できなかった理由は……」

ダメだ。これ以上は聞いたらいけない。

そうわかってるのに、俺に彼女の言葉を止めることはできなかった。



202 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:27:38.87 ID:4ZfHDWbX.net
「その……先輩に会いに行ったんです。行ったのに、いざって時に、その……あなたの……」

止めなきゃいけないんだ。

でも、やっぱり俺には その涙交じりの声を遮ることはできなかった。

もしかしたら期待しているのかもしれない。

そんなのはダメなのに。

俺は卑怯だ。



203 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:27:55.16 ID:4ZfHDWbX.net
「あなたの……あなたのこと思い出して、それで……」

「わかってる! わかってるんだ。ごめん」

もう耐えられなかった。

自分の卑怯さに、ずるさに、汚さに。

そして、自分が満足するために俺は これからもっと最低なことを言う。

無責任で最低なことを。





204 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:28:13.60 ID:4ZfHDWbX.net
「ごめん……俺が言わなきゃいけないんだよな。それなのに……それなのに俺は、全部君に言わせて。自分が傷つくのが怖いから、だから、無責任なことは言わないって言い訳して……最低だ」

彼女の泣き声が聞こえた。

これ以上は言っちゃいけないなんてわかってるんだ。

でも、自分を抑えるのはもう無理だった。



205 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:28:31.50 ID:4ZfHDWbX.net
「俺も一緒だ。告白しようってときに君の声が、君のことが頭に浮かんで、言えなかった。

わかってる、無責任だって。俺は君と同じ時間にいられないのに、それなのに俺は君のことが……」

その先は言えなかった。

言う勇気なんてなかった。



206 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:29:24.83 ID:4ZfHDWbX.net
「なんでですかね……なんで。今、同じ場所にいるんですよね、私たち。

同じところにいるのに、同じ景色を見ているのに、同じ匂い、同じ音、同じものを感じているのに、それなのに私たちの距離は世界のどこよりも遠い。

こんなに想ってるのに私はあなたと同じ時間を生きられない。私だってわかってます。言っちゃいけないって。想ったらいけないって。でも、私もあなたが……」

彼女もその先を言わなかった。

二人ともわかってるんだ、この気持ちがダメだってことくらい。

同じ時間を生きられないのに、こんな気持ちになったらダメだって。

それでも この気持ちが消えることはなかった。

彼女との距離は世界で一番近いのに、世界で一番遠かった。



207 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:29:44.11 ID:4ZfHDWbX.net
もうどうしたらいいかわからない。

彼女になんて言えばいいのかわからなかった。

「ねぇ、いま何が見えますか?」

彼女が突然聞いてきた。

それが何を意味するのかわからなかったけど、それでも俺にはその問いに答える以外の選択肢は浮かばなかった。



208 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:30:01.75 ID:4ZfHDWbX.net
「何って、海と――」

「桜、ですよね」

確かに桜が見える、海と桜、不思議な光景だ。

「珍しいですよね、海と桜が一緒に見れるの。だからお気に入りの場所なんです。前にも言ったでしょ、『さくら』は私にとって特別だって、その理由わかりますか?」



209 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:30:20.12 ID:4ZfHDWbX.net
理由、それはきっと、「名前?」

「正解です。あなたがいま見てる桜、それが私の名前です。多分これから言うのは すごい勝手なことだと思います。でも、少しだけわがまま言ってもいいですか?」

「そんなのいくらだってきくよ」

それが俺にできることならなんだってする。

「じゃあ、桜を見たら少しでいいんです、私のこと思い出してもらえませんか? ほんの少しでいいから私がいたって、春になるたびに、少しだけ私がいたことを思い出して欲しいんです。桜が見える間だけ、私をあなたの心においてください。お願いします」



210 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:30:47.00 ID:4ZfHDWbX.net
「思い出すよ、何回だって思い出す。少しだけなんかじゃない、もっと、もっと」

うまく話せない。

目には多分涙がにじんでいた。

「ありがとうございます。じゃあ覚えててもらえますか? 私の名前は、さくら――」

彼女が言い終わる前に、ツーツーという電話が切れる音が耳に響いた。



211 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:31:02.76 ID:4ZfHDWbX.net
それから何度かけ直しても電話はつながらなかった。



212 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:31:46.21 ID:4ZfHDWbX.net


あの日から一週間がたった。

あれから俺は一歩も外に出ず、ずっと部屋に引きこもっていた。







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カテゴリー:読み物  |  タグ:青春,
 

 
 
 
 

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