僕とオタと姫様の物語
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300 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/05(日) 00:13
姫様に揺り起こされた。
姫様の顔が目の前にあって、ぼくを覗きこんでた。
姫様の頭のうしろ、直線で結ばれた先にダウンライトがあり、逆光で顔が見えない。
ぼくは再び目を閉じ、記憶を手繰って姫様の綺麗な顔を目の前の気配に重ねる。イメージが重なったその刹那 ぼくは半身を起こして姫様の髪に触れた。
煙草の煙がゆるやかに流動するこの部屋で、姫様の髪も煙草の匂いがした。
「カナは もう帰った。午前中は たいていダンスの練習なんだって」
ああ、そうかなるほど。彼女のあの筋肉は そのためなんだな。しなやかな野生動物のような四肢。ゆっくり記憶を再生してみる。
そういえば、彼女は あまり笑わなかったな。ふつうの女の子ほどには。大きい瞳がよく動いて、ぼくを監視するように見てたっけ。
鼻をこする癖があって、両手は たいていポケットに納まってた。
外見ほどには きつくなくて、話し掛けると、倍の量の言葉が返ってくる。
彼女は、いい、とか悪いとか、そんな言葉をよく使った。いい曲だね。とか、その曲は嫌い、ではなく悪い曲、と言った。そんな具合に。
いつだったか、仕事で一緒した若いイラストレータの女性のことを思い出した。
彼女は企業に押し付けられた配色を、悪い色。と言った。もちろん色の配合に、いいも悪いもないのだけど、そんな考え方をする彼女に ぼくは密かに嫌悪感を抱いていた。
仕事の進行に差し支えないかなと、そんな心配をしていた。だけど、彼女もまたプロだった。
彼女の指定通りに進めると、最終的には彼女が最初に力説した漠然とした曖昧な言葉で押し切った「いい色」が出来上がった。ぼくにも それは理解できた。
問題があるとすれば、ぼくは いまだにそのプロセスを上手く説明できないってこと。
間違いなく そこに存在するのに。論理的には上手く紐解けない。
姫様がいて、カナがいて。
ぼくは どれだけ姫様のことを理解できてるんだろう。
もちろん音符の連鎖に、いいも悪いもない。でも彼女は、ぼくの歌った歌を、いい曲と言った。
面倒だな。単純に考えてみようか。
カナから見たぼくは、姫様の側にいる男として ふさわしかったんだろうか。
301 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/05(日) 00:18
姫様はバッグからピンクのクマを引っぱり出して ぼくに なんどもキスさせたり、パンチしたり、意味不明な言葉で喋りかけたり たまにジンジャエルを口に運んで、膝枕しているぼくの顔に垂らそうと ふざけてみたりした。
「ねえ」とぼくは言った。
ん?と彼女。
「今日の昼間。ぼくの家で何をみたんだ?
セントポーリア。
あの嘘は ぼくも驚いた」
彼女の口元に笑みがこぼれる。
「さあ、なぜでしょうねぇ」
「推理してみようか」
「いいよ。やってみて」
彼女の膝は最高に心地よかった。何度も寝返りをうち さも考えてるふうを装ってその感触を楽しむ。
「少なくとも君はセントポーリアに詳しい。
その栽培方法を知ってる。
これは間違いないよね」
彼女はジンジャエルを口に含んだまま、うんうんと答える。
「問題は、なぜ ぼくの母がセントポーリアを好きだと分かったかってことなんだよね」
うんうん。
「家にセントポーリアの鉢植えは ひとつもなかった」
うんうん。
「機材かな。有名なメーカの何かがあったとか。栽培に適切な鉢が転がってたとか」
彼女はクマをぼくの顔めがけてダイブさせた。
「ぴんぽん!正解です。玄関にね。たくさん栽培用ライトの残骸が残ってたの。家のおじいちゃんが使ってたのと同じメーカ。それから居間の隅にあった空っぽのガラスケース」
「ふーん。なるほどねぇ。でもさ、そんな たくさん育ててなかったかもしれない」
「それはあり得ないですねぇ。鉢植え自体は小さいもん。あのライトの量は昨日今日はじめた人じゃないってことくらい分かる。単純にいっても10鉢。たぶん それ以上あったんじゃないかな」
「ふーん。なるほどね」
「それに間違ってたとしても、ヒロのリカバリに期待してたし」
おいおい。
ぼくはテーブルの上に転がってたジンジャエルのペットボトルのキャップをなんとなく、ピンクのクマの頭に被せてみた。
あれ。ぴったりだ。トルコの兵隊みたいだ。彼女はきゃあきゃあ笑った。
「よかったねクマ。明日はコカコーラのキャップの帽子を買ってあげるね」
彼女は そう言って両手でクマを抱いた。
きっと幾晩も そうしてきたせいで、クマのフェルトのボディは そんな色になったんだろうな。
汚いぬいぐるみは、愛された証拠か。
302 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/05(日) 00:20
ホテルに戻ると ぼくは真っ先にPCを起動した。
姫様がシャワーを浴びてる間に確認しておきたかった。
画像は届いていて、3枚ともいっぺんにブラウザに突っこむ。
ひどい画像だった。何かフィルタでも施したんだろう。
モノクロの ざらざらした感じは、何度もファクスして劣化したようにも見える。まるでアンダーグラウンドのロックバンドのチラシだ。
オタの言ったナンバープレートを確認する。
すべて6桁の数字。
たしかにそれは、あからさまにコラージュされたように、輪タクのホロにアングルの補正もされないまま くっついてた。
そもそも輪タクにナンバープレートなんて付いてるんだろうか?
とにかく考えても はじまらない。情報が少なすぎる。
ぼくは次に、彼女のバッグから白い封筒を引っぱり出した。封は されてない。
中身は やはりフロッピィだった。
ブートして中を確認してみたけど、ファイルに触れることはしなかった。見ても たぶん何もわからないだろう。
このPCには画像処理用のソフトウェアがインストールされてない。
それに交換条件の分、オタには しっかり働いて貰うとしよう。
オタのアドレスを呼び出して、そこに全部突っこむ。
gifファイルがひとつ。
エクセルのファイルがひとつ。
メモ帖がひとつ。
すべて送信が終わって、時計を確認した。
起動してから終了するまで10分。ちょっと時間がかかりすぎかもな。慎重にやらないと。
緊張感がなくなったときが一番危険だ。
ぼくは姫様の秘密を覗き見している。
これは背信行為なんだと自分に言い聞かせた。
やるからにはクールにやろう。完璧を目指そう。
310 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/05(日) 11:24
カーテンを開け、窓の外を見ると雨脚が強くなってた。眼下に広がる東京の街は死んだように静まりかえっている。
街灯のまるいドーム状の明かりとネオンサイン。ぼくらはついさっきまで、このミニチュアの街の中にいた。
ここから見ている風景は、どこか遠くの街、子供の頃何かの本で見た異国の街のようにも思える。
絶対に訪れることない、ほんとうに実在するのかどうかさえ あやしい説得力に欠ける噂と、重みのない貼付写真でしか知りえない どこかの街。
ぼくは ときどき こんなふうに考えることがある。
自分にとっての現実なんて、たかだか半径2メートル。
その目の届く範囲、そのボール状の球体の内側に入ってきた何かだけで成り立ってるんじゃないかって。
たいていの人は、その球体の外には自分の知りえない巨大で膨大なデータが流れてることを信じて疑わない。
でも、ほんとうに そうなんだろうか。
ぼくの手の届かない場所は、じつは からっぽ。
ぼくがノックしたドアにだけ電源が投入され、入り口のネオンが ちかちか またたいて はい。スタート!って具合。
ぼくは ときどき、自分のそんな閉鎖的な考え方を、自分の意志とは裏腹につき破ってみることがある。
漫画にでてくる、いびつな海上機雷の腕みたいに球状の現実と夢の境界ラインを変化させて、その外にある何かを探ってみようとすることがある。
それは、獲得しえなかった仕事の後日談の裏側だったり今回のように、偶然出会った姫様だったりもする。
結果は さまざまで、もちろん中には知らないほうがよかったと思えることもある。
姫様はクリスマスの夜、サンタクロースが ぼくにDHLで送りつけた、たちの悪い冗談だ。
異空間に広がる針葉樹林のどこかの漫画みたいな家のなかで、意地の悪いサンタは ぼくがいずれ来る現実に叩きのめされる様を、いまかいまかと待ち望んでるに違いない。
かまうもんか。とぼくは思った。
姫様がクマを大事にするように、ぼくにも彼女が必要なんだ。
315 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/06(月) 00:14
バスルームのドアが開いて 姫様がでてきたとき、ぼくは寝そべってテレビを見ていた。
深夜枠の馬鹿なお笑い。ところが、その笑いは巧妙に練られており つくり手が視聴者を馬鹿にするような構成になっていた。
見ているうちに引きこまれ、姫様がベッドを揺らして近づいてくるまで ぼくは口をぽかんと開けたまま、間抜け面でブラウン管を凝視してたんだと思う。
風呂上りのいい匂いにつられて、ベッドの揺れる先に目をやったぼくは おや?といぶかった。
まだ どこかへ出かける気でいるのかな姫様は。
丈の短いバスローブの下には もう出かける下準備が ととのったのか細い脚には白いストッキングまでつけている。
「お出かけですか お姫様」
「なぜ?どこにも行かないよ?」
姫様は そう言ってサイドテーブルの上にあるメインライトのボリュームをつまんだ。
まるで映画でも はじまるみたいに、部屋から光が失われてゆく。
姫様は ぼくの視線の先につま先で立ち、悪戯っぽく微笑んでから バスローブを腰の位置でしぼった、タオル地のベルトをゆっくり抜きとった。
「気に入ってもらえたかな?」
ぼくは言葉がみつからなかった。無言。
この手の写真のお世話になったことは何度もある。
だけど現実に、まのあたりにしたことは一度もない。たぶん最初で最後になるんじゃないかなとも考えてみたりした。
ガータベルト。ガーターベルトだっけ?
ああ、そんなことは どうでもいいや。
姫様は全体が同じデザインでまとまった、なんていうか かなりセクシーな下着を身に着けていた。
華奢なチェストを覆うベアトップのビスチェから垂れる4本の紐の先に4匹の金属でできた蝶がいて、そいつが太もものまわりにとまっている。下着全体にも青い蝶が、刺繍と絡んでプリントされてた。
凝視していると下着は下着でなく なにか別のもの、彼女の皮膚のようにも見えた。
眺めてる時間が長くなればなるほど、姫様に触れなくなるような気がした。
綺麗すぎるんだよ姫様。
美術館にやってきた巨匠絵画。馬鹿馬鹿しくも近寄ることを禁止された来場客。
君が ぼくを客と割り切ってくれてたら、どんなにか楽だったろうな。
君は ぼくの気持ちまで満たそうとした。それは たぶん、君的に言えば、嬉しかったから。なんだろうけど。
刺激も、あるピークを過ぎると人の脳は それをカットするためにβエンドルフィンを放出すると何かの本で読んだ。
安心して、落ちつきたい。
ぼくは まさに そんな気分だった。
316 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/06(月) 00:19
持ち歩いてたCDプレイヤーからCDを取りだしてPCで再生した。音はひどいけど、ないより ぜんぜんいい。
たしかSmashing Pumpkins。
ぼくが好きに選んだ曲だけを集めて焼いたCDで激しいのはカットしてある。姫様といるときに聴きたいと思ってたけど、これまで機会がなかった。
ベッドにふたりで横になって、それから とりとめのない話をした。
姫様は自分の大胆な下着姿に、ぼくが引いたと誤解した。
きっと喜んでもらえると信じてたみたいだったし、そう口にもした。
もちろん喜んださ。でも説明するのが ひと苦労だった。
姫様は男の生理を完璧には知らない。いや、知りうる機会がなかったんだろうな。
だからお願いだから着替えないで欲しいと、ぼくは懇願した。ちょっとは寒いかもしれないけど、シーツにくるまってればいいし。
コーヒーでも飲もうか?レモネードのほうがいいかな?さもなきゃ暖かいスープ。
見ていたいんだよ姫様。ぼくのそばにいてほしい。
何度も挑戦した結果、この気持ちの説明は無理だと悟った。
ぼくは君を娼婦だとか商売女だとか、そんなふうには思っていない。その下着は素敵だし、まったく そういうこととは関係がない。
とはいえ それを伝える術がなかった。
「好き」だとか「愛してる」からだとか そんなお決まりの台詞を持ちだすのは抵抗があったし、しかも微妙に違う。
ただ君が綺麗だと思ったんだよ。ほんとうに。嘘偽りなく。ずっと見ていたかったんだよ。
姫様に揺り起こされた。
姫様の顔が目の前にあって、ぼくを覗きこんでた。
姫様の頭のうしろ、直線で結ばれた先にダウンライトがあり、逆光で顔が見えない。
ぼくは再び目を閉じ、記憶を手繰って姫様の綺麗な顔を目の前の気配に重ねる。イメージが重なったその刹那 ぼくは半身を起こして姫様の髪に触れた。
煙草の煙がゆるやかに流動するこの部屋で、姫様の髪も煙草の匂いがした。
「カナは もう帰った。午前中は たいていダンスの練習なんだって」
ああ、そうかなるほど。彼女のあの筋肉は そのためなんだな。しなやかな野生動物のような四肢。ゆっくり記憶を再生してみる。
そういえば、彼女は あまり笑わなかったな。ふつうの女の子ほどには。大きい瞳がよく動いて、ぼくを監視するように見てたっけ。
鼻をこする癖があって、両手は たいていポケットに納まってた。
外見ほどには きつくなくて、話し掛けると、倍の量の言葉が返ってくる。
彼女は、いい、とか悪いとか、そんな言葉をよく使った。いい曲だね。とか、その曲は嫌い、ではなく悪い曲、と言った。そんな具合に。
いつだったか、仕事で一緒した若いイラストレータの女性のことを思い出した。
彼女は企業に押し付けられた配色を、悪い色。と言った。もちろん色の配合に、いいも悪いもないのだけど、そんな考え方をする彼女に ぼくは密かに嫌悪感を抱いていた。
仕事の進行に差し支えないかなと、そんな心配をしていた。だけど、彼女もまたプロだった。
彼女の指定通りに進めると、最終的には彼女が最初に力説した漠然とした曖昧な言葉で押し切った「いい色」が出来上がった。ぼくにも それは理解できた。
問題があるとすれば、ぼくは いまだにそのプロセスを上手く説明できないってこと。
間違いなく そこに存在するのに。論理的には上手く紐解けない。
姫様がいて、カナがいて。
ぼくは どれだけ姫様のことを理解できてるんだろう。
もちろん音符の連鎖に、いいも悪いもない。でも彼女は、ぼくの歌った歌を、いい曲と言った。
面倒だな。単純に考えてみようか。
カナから見たぼくは、姫様の側にいる男として ふさわしかったんだろうか。
301 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/05(日) 00:18
姫様はバッグからピンクのクマを引っぱり出して ぼくに なんどもキスさせたり、パンチしたり、意味不明な言葉で喋りかけたり たまにジンジャエルを口に運んで、膝枕しているぼくの顔に垂らそうと ふざけてみたりした。
「ねえ」とぼくは言った。
ん?と彼女。
「今日の昼間。ぼくの家で何をみたんだ?
セントポーリア。
あの嘘は ぼくも驚いた」
彼女の口元に笑みがこぼれる。
「さあ、なぜでしょうねぇ」
「推理してみようか」
「いいよ。やってみて」
彼女の膝は最高に心地よかった。何度も寝返りをうち さも考えてるふうを装ってその感触を楽しむ。
「少なくとも君はセントポーリアに詳しい。
その栽培方法を知ってる。
これは間違いないよね」
彼女はジンジャエルを口に含んだまま、うんうんと答える。
「問題は、なぜ ぼくの母がセントポーリアを好きだと分かったかってことなんだよね」
うんうん。
「家にセントポーリアの鉢植えは ひとつもなかった」
うんうん。
「機材かな。有名なメーカの何かがあったとか。栽培に適切な鉢が転がってたとか」
彼女はクマをぼくの顔めがけてダイブさせた。
「ぴんぽん!正解です。玄関にね。たくさん栽培用ライトの残骸が残ってたの。家のおじいちゃんが使ってたのと同じメーカ。それから居間の隅にあった空っぽのガラスケース」
「ふーん。なるほどねぇ。でもさ、そんな たくさん育ててなかったかもしれない」
「それはあり得ないですねぇ。鉢植え自体は小さいもん。あのライトの量は昨日今日はじめた人じゃないってことくらい分かる。単純にいっても10鉢。たぶん それ以上あったんじゃないかな」
「ふーん。なるほどね」
「それに間違ってたとしても、ヒロのリカバリに期待してたし」
おいおい。
ぼくはテーブルの上に転がってたジンジャエルのペットボトルのキャップをなんとなく、ピンクのクマの頭に被せてみた。
あれ。ぴったりだ。トルコの兵隊みたいだ。彼女はきゃあきゃあ笑った。
「よかったねクマ。明日はコカコーラのキャップの帽子を買ってあげるね」
彼女は そう言って両手でクマを抱いた。
きっと幾晩も そうしてきたせいで、クマのフェルトのボディは そんな色になったんだろうな。
汚いぬいぐるみは、愛された証拠か。
302 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/05(日) 00:20
ホテルに戻ると ぼくは真っ先にPCを起動した。
姫様がシャワーを浴びてる間に確認しておきたかった。
画像は届いていて、3枚ともいっぺんにブラウザに突っこむ。
ひどい画像だった。何かフィルタでも施したんだろう。
モノクロの ざらざらした感じは、何度もファクスして劣化したようにも見える。まるでアンダーグラウンドのロックバンドのチラシだ。
オタの言ったナンバープレートを確認する。
すべて6桁の数字。
たしかにそれは、あからさまにコラージュされたように、輪タクのホロにアングルの補正もされないまま くっついてた。
そもそも輪タクにナンバープレートなんて付いてるんだろうか?
とにかく考えても はじまらない。情報が少なすぎる。
ぼくは次に、彼女のバッグから白い封筒を引っぱり出した。封は されてない。
中身は やはりフロッピィだった。
ブートして中を確認してみたけど、ファイルに触れることはしなかった。見ても たぶん何もわからないだろう。
このPCには画像処理用のソフトウェアがインストールされてない。
それに交換条件の分、オタには しっかり働いて貰うとしよう。
オタのアドレスを呼び出して、そこに全部突っこむ。
gifファイルがひとつ。
エクセルのファイルがひとつ。
メモ帖がひとつ。
すべて送信が終わって、時計を確認した。
起動してから終了するまで10分。ちょっと時間がかかりすぎかもな。慎重にやらないと。
緊張感がなくなったときが一番危険だ。
ぼくは姫様の秘密を覗き見している。
これは背信行為なんだと自分に言い聞かせた。
やるからにはクールにやろう。完璧を目指そう。
310 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/05(日) 11:24
カーテンを開け、窓の外を見ると雨脚が強くなってた。眼下に広がる東京の街は死んだように静まりかえっている。
街灯のまるいドーム状の明かりとネオンサイン。ぼくらはついさっきまで、このミニチュアの街の中にいた。
ここから見ている風景は、どこか遠くの街、子供の頃何かの本で見た異国の街のようにも思える。
絶対に訪れることない、ほんとうに実在するのかどうかさえ あやしい説得力に欠ける噂と、重みのない貼付写真でしか知りえない どこかの街。
ぼくは ときどき こんなふうに考えることがある。
自分にとっての現実なんて、たかだか半径2メートル。
その目の届く範囲、そのボール状の球体の内側に入ってきた何かだけで成り立ってるんじゃないかって。
たいていの人は、その球体の外には自分の知りえない巨大で膨大なデータが流れてることを信じて疑わない。
でも、ほんとうに そうなんだろうか。
ぼくの手の届かない場所は、じつは からっぽ。
ぼくがノックしたドアにだけ電源が投入され、入り口のネオンが ちかちか またたいて はい。スタート!って具合。
ぼくは ときどき、自分のそんな閉鎖的な考え方を、自分の意志とは裏腹につき破ってみることがある。
漫画にでてくる、いびつな海上機雷の腕みたいに球状の現実と夢の境界ラインを変化させて、その外にある何かを探ってみようとすることがある。
それは、獲得しえなかった仕事の後日談の裏側だったり今回のように、偶然出会った姫様だったりもする。
結果は さまざまで、もちろん中には知らないほうがよかったと思えることもある。
姫様はクリスマスの夜、サンタクロースが ぼくにDHLで送りつけた、たちの悪い冗談だ。
異空間に広がる針葉樹林のどこかの漫画みたいな家のなかで、意地の悪いサンタは ぼくがいずれ来る現実に叩きのめされる様を、いまかいまかと待ち望んでるに違いない。
かまうもんか。とぼくは思った。
姫様がクマを大事にするように、ぼくにも彼女が必要なんだ。
315 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/06(月) 00:14
バスルームのドアが開いて 姫様がでてきたとき、ぼくは寝そべってテレビを見ていた。
深夜枠の馬鹿なお笑い。ところが、その笑いは巧妙に練られており つくり手が視聴者を馬鹿にするような構成になっていた。
見ているうちに引きこまれ、姫様がベッドを揺らして近づいてくるまで ぼくは口をぽかんと開けたまま、間抜け面でブラウン管を凝視してたんだと思う。
風呂上りのいい匂いにつられて、ベッドの揺れる先に目をやったぼくは おや?といぶかった。
まだ どこかへ出かける気でいるのかな姫様は。
丈の短いバスローブの下には もう出かける下準備が ととのったのか細い脚には白いストッキングまでつけている。
「お出かけですか お姫様」
「なぜ?どこにも行かないよ?」
姫様は そう言ってサイドテーブルの上にあるメインライトのボリュームをつまんだ。
まるで映画でも はじまるみたいに、部屋から光が失われてゆく。
姫様は ぼくの視線の先につま先で立ち、悪戯っぽく微笑んでから バスローブを腰の位置でしぼった、タオル地のベルトをゆっくり抜きとった。
「気に入ってもらえたかな?」
ぼくは言葉がみつからなかった。無言。
この手の写真のお世話になったことは何度もある。
だけど現実に、まのあたりにしたことは一度もない。たぶん最初で最後になるんじゃないかなとも考えてみたりした。
ガータベルト。ガーターベルトだっけ?
ああ、そんなことは どうでもいいや。
姫様は全体が同じデザインでまとまった、なんていうか かなりセクシーな下着を身に着けていた。
華奢なチェストを覆うベアトップのビスチェから垂れる4本の紐の先に4匹の金属でできた蝶がいて、そいつが太もものまわりにとまっている。下着全体にも青い蝶が、刺繍と絡んでプリントされてた。
凝視していると下着は下着でなく なにか別のもの、彼女の皮膚のようにも見えた。
眺めてる時間が長くなればなるほど、姫様に触れなくなるような気がした。
綺麗すぎるんだよ姫様。
美術館にやってきた巨匠絵画。馬鹿馬鹿しくも近寄ることを禁止された来場客。
君が ぼくを客と割り切ってくれてたら、どんなにか楽だったろうな。
君は ぼくの気持ちまで満たそうとした。それは たぶん、君的に言えば、嬉しかったから。なんだろうけど。
刺激も、あるピークを過ぎると人の脳は それをカットするためにβエンドルフィンを放出すると何かの本で読んだ。
安心して、落ちつきたい。
ぼくは まさに そんな気分だった。
316 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/06(月) 00:19
持ち歩いてたCDプレイヤーからCDを取りだしてPCで再生した。音はひどいけど、ないより ぜんぜんいい。
たしかSmashing Pumpkins。
ぼくが好きに選んだ曲だけを集めて焼いたCDで激しいのはカットしてある。姫様といるときに聴きたいと思ってたけど、これまで機会がなかった。
ベッドにふたりで横になって、それから とりとめのない話をした。
姫様は自分の大胆な下着姿に、ぼくが引いたと誤解した。
きっと喜んでもらえると信じてたみたいだったし、そう口にもした。
もちろん喜んださ。でも説明するのが ひと苦労だった。
姫様は男の生理を完璧には知らない。いや、知りうる機会がなかったんだろうな。
だからお願いだから着替えないで欲しいと、ぼくは懇願した。ちょっとは寒いかもしれないけど、シーツにくるまってればいいし。
コーヒーでも飲もうか?レモネードのほうがいいかな?さもなきゃ暖かいスープ。
見ていたいんだよ姫様。ぼくのそばにいてほしい。
何度も挑戦した結果、この気持ちの説明は無理だと悟った。
ぼくは君を娼婦だとか商売女だとか、そんなふうには思っていない。その下着は素敵だし、まったく そういうこととは関係がない。
とはいえ それを伝える術がなかった。
「好き」だとか「愛してる」からだとか そんなお決まりの台詞を持ちだすのは抵抗があったし、しかも微妙に違う。
ただ君が綺麗だと思ったんだよ。ほんとうに。嘘偽りなく。ずっと見ていたかったんだよ。
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