僕とオタと姫様の物語
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586 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/03(日) 01:22:55
横須賀駅は利用者の多い割に こぢんまりしていてぼろい。
日が落ちてしまうと商店街に混ざって、はじめて訪れたものには駅らしく見えなかったりする。
ぼくらは駅間近の海岸沿い直線コースのどこかで立ち止まり潮の匂いを嗅ぎ、汚れた海面に反射する光の束をじっと眺めた。
この頃には 寒さが直接皮膚にまで浸入していて、コートの内側にさえ温度がないように感じられた。
彼女の手も顔も海からの風に撫でられて真っ白。頬の赤みもない。
ぼくは彼女の指先をなんどもこすって摩擦で熱を戻そうとしたけど効果はなかった。ポケットから指を出し、外気に触れたとたん感覚がなくなる。
彼女の頬を触っても自分の指先に触感がなく、頬は冷凍されたあと 常温で自然解凍された肉みたいな不自然な柔らかさだった。
「夜景きれいだね」と彼女が言った。
「あの光にジャンプしたら すぐ死ねるかな」
「1分で死ねるかもね。充分に冷えてるし、あまり苦しまないでいいかもしれない」
彼女が本気で海へダイブするとは思えなかった。
ひどく落ちこんでいて、感傷的になってるのはわかるけど そんな思い詰めた雰囲気でもなかった。
彼女がジャンプするなら いままで何年もそのチャンスはあったはずだ。
ぼくは彼女の気が済むまで付き合った。
彼女の足が駅へむかって動き出すまで長いこと そこに佇んだ。
「ねえ。ヒロ」
「ん?」
とぼく。
「もしいっしょに死んでって言ったら、どうする?」
ぼくは笑った。
「死なないよ。絶対に。
ぼくは お姫様を東京へ連れて帰る。
あのホテルで暖かいコーヒーを二人で飲みたいから」
彼女は ようやく歩きはじめた。
クマを海に向かって突きだし、ちっちゃなフェルトの腕をつまんで海にバイバイさせた。
そのときぼくは、ここへ来る途中利用したタクの運転手を思い出した。あのおっさんの話だと、この直線コースの先に たしかラーメン屋があるはずだ。
美味いかどうかなんて、この際どうでもよかった。ラーメンのスープは どんな不味い店で食べたって熱いはずだ。
道の先に横須賀駅が見え、その手前に記憶してた店の名をみつけたとき、彼女も黙ってぼくを見つめた。
ぼくらは言葉を交わさないまま店のドア目指して早足で歩いた。
意外にもラーメンは美味かった。
彼女は熱いスープを ふぅふぅやりながら、鼻をすすり「ありがとう今夜」と言ってから、また ぐずぐず泣きはじめた。
587 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/03(日) 01:25:15
東京駅に戻ったときには日付が変わろうとしていた。
終電には まだちょっとだけ余裕があったけど ぼくらは道草しないで乗り換えホームを目指した。
ひどく寒くて寒すぎて笑ってしまいそうなほど寒かった。体ががたがた震え、治まったと思うとまた震える。
寒くて麻痺してた皮膚に まともな触感が戻ってきたと思ったら 今度は鋭敏すぎるほどで、彼女が絡めてくる指先が直接神経を刺激するみたいに ぴりぴり反応した。痛いほどだ。
ホテルに戻ったのが午前1時。
体に力が入りにくく、おかしいなと思いつつ フロントのソファに押しを下ろし コーヒーを注文して部屋に届けてもらうよう頼み エレベータに乗りこんだのが1時30分。
体が高熱を発して、とうとう倒れるようにベッドへ崩れ落ちたのが きっかり午前2時だった。
慌てたのが彼女だった。
どう見たって尋常じゃないぼくの赤くなった顔に驚き 額に手をあてて騒ぎはじめ、どこかへ消えたと思ったら解熱剤と風邪薬を持って戻ってきた。
ホテルの常備薬かな、とぼんやり考えながら飲む振りだけしてゴミ箱に捨てた。
いったん発症した風邪を押さえこむ特効薬なんてない。飲むだけ無駄だ。それに ぼくは薬が大嫌いなんだ。
彼女は ぼくを厄介事に巻きこんだと、ひどく後悔していた。こんな冷えこんだ夜に横須賀の闇の中へぼくを連れ出したと、本気で思いこんでいた。
それは ぼくが言いだしたことなんだ。
君じゃなくて、ぼくが連れ出したんだ。
ぼくが君を泣かせてしまった。
もしかすると姫様に会った最初の晩に、ぼくは風邪ウイルスに感染していたのかもしれない。
電車のつり革かもしれないし、会社の同僚のくしゃみを知らずに吸いこんだのかもしれない。
ひっそりと潜伏して、たまたま今夜発熱したんだよ。
ぼくは ゆっくりとそう話して聞かせた。子供を相手に話す口調で優しくいい聞かせた。
でも彼女は まったく聞き入れようとはしなかった。
あの神社の境内があまりに寒すぎたために、ぼくが風邪を引いた。
そう、まるで賽銭クジでも買ったみたいに、ぼくが風邪を引き当てたと本気で信じていた。
ぼくは眠った。
自分の意志とは関係なく、突然ひどい眠気に襲われて意識を失った。
それでも深夜に何度か目が覚め、人の気配を感じ、そしてまた眠る。
そんなことを何度も繰りかえした気がする。
傍らのすごく近い位置に姫様のかすかな匂い。
あの甘ったるい香り。
女のやわらかな体温。
姫様が ぼくの手を握ってくれている。
このまま死んじゃってもいいや。
こんなに平穏で静かで安堵できる暗がりに包まれて逝けるなら、それでもいいや、と思った。
588 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/03(日) 01:27:27
ぼくは夢を見た。
横須賀駅前の直線コース。
街頭の灯っていない暗闇の中をすさまじい勢いで滑空する。
タクで移動した道順をトレースして、ぼくはあの公園、神社境内に至る。
そこにあるのは あの夏の日。ぼくの知らない夕方。
子供達の笑顔の群れと高揚した声と騒がしい足音。
その先に白い服の少女がいて、ぼくをじっと見つめていた。
いや、ぼくを通過してぼくの背後にある何かを見つめていた。
ときどき蝉の声が聞こえた。
テレビから漏れてくるようにその音は鮮明で、ありえないほど近い。
ぼくは蝉の位置を探る。
少女が目の前にいる。
少女の手に握られたもの。
中国製の三十八口径。
首にはピンクのクマのぬいぐるみと、菊の紋章が刻印された赤いパスポートが下がっている。
少女は ぼくが見つめていることに気づいていないようだった。
素足で立ち、指先は泥だらけで、その指で鼻の頭を触ったために鼻の頭まで泥で汚れている。
その指先が三十八口径の遊底にも触れる。
遊低には遊びがあり、それが可動することがわかると指先は かちゃかちゃと音のする重たい金属を引っ張ろうとムキになる。
リコイルスプリングが、少女の指の動きに逆らって遊低を押し戻そうとした瞬間三十八口径は少女の手のひらで踊り乾いたパンという音をたてて地面に落下する。
一瞬のできごと。
たっぷりと汗をかいて目覚めるぼく。
目の前にホテルの部屋の天井があり驚いた姫様がベッド脇から立ち上がって ぼくを覗きこむ。
彼女は なにか言っていた。でもよく聞き取れない。
外は まだ暗い。何時くらいなんだろう。
そんなことをぼんやり考えていると、姫様がボカリスエットのペットボトルを口に運んでくれた。
ありがとう、も言えないまま ぼくは また眠りへと落ちる。
ひどくつらかった。風邪の熱も、いま見た夢も。
遠いどこかからバッハの無伴奏チェロソナタが聞こえてきた。
姫様がヘッドフォンつけてくれたのかな。ぼくのために。
音楽には傷を癒す力がある。
ぼくは そう信じて疑わないタイプだけど、彼女がしっかり握っていてくれる手のひらの触感には、とうてい及ばない気がした。
618 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/03(日) 16:34:16
6日目の朝。遅い時間。
姫様に揺り起こされて目覚めた。
最後の日だっていうのに、体がさっぱりいうことを聞いてくれなかった。
熱は いくらか治まってたけど眠くてしかたなかった。
彼女がコンビニで買ってきてくれたスープとパンを時間をかけて食べお礼を言って、彼女には もう帰るよう勧めた。
楽しかった新年の数日。もう充分だ。
これ以上引きとめても可哀想だし。
午後も眠って過ごしてしまうだろうし。
彼女は何も言わなかった。
ぼくの手からパンの包みをとって捨ててくれ、飲みきれなかったスープを引き受けてくれた。
それから彼女は裸になってベッドへ滑るように潜りこんできた。
ひんやりとした彼女の肌。シーツの衣擦れの音。
長い髪が、かわいいおっぱいに垂れてふんわり揺れる。
寝てないから、寝る。と彼女は言った。
午後から雨が降りはじめた。
ホテルの部屋は もの音ひとつなくて 午後の美術室みたいな冷たい静けさがあった。
サイドテーブルの上の時計の振り子がモーターの入ったガラスドームのなかで くるくる回転している。
午後1時を過ぎた頃に、彼女の寝息を聞いた。
ぼくの記憶は そこで途切れていた。
後に残ったのは浅い眠りの中で見た夢。
いまとなってはどうでもいい、アジアのどこかの街並みと一枚のフロッピィディスク。
619 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/03(日) 16:35:37
暗い部屋の中で また目覚めたとき 彼女はもういなかった。
クロゼットからも、バスルームからも彼女が ここにいた痕跡すらすべて消え失せていた。
シンクの回りにまき散らされた化粧品もベッド脇にあった紙袋の山も一切合切が突然この部屋から切り取られて魔法のように消失した。
電源が投入されて待機画面になったままのノートPC。
サイドテーブルにあった一枚のメモ。
ぼくはふらつきながら、トイレへ立ち、そのあとで冷蔵庫からペリエを取りだしてがぶ飲みした。
焦って飲んだせいで鼻に逆流して、止まらない咳になった。
日が落ちてから熱が体の内側から再び沸き起こり燃えるように熱かった。
体がひどくだるく、鉄みたいに重く、関節がぎしぎしときしむようだった。
ライトのボリュームに手を伸ばして なんとかねじることができた。
メモにに残された筆跡は達筆で、こう書かれていた。
また熱が出るのかな。
ちょっと心配です。
だからクマを置いていきます。
クマがヒロを見張っています。
このクマは わたしの命より大切です。
だから またわたしに電話して 必ずわたしのバッグに戻してください。
p.s.
ヒロの大切なお友達に連絡しておきました。
遅くならない時間に迎えにきてくれるはずです。
それまでベッドを出ないように。
おっけい?わかった?
恵子
横須賀駅は利用者の多い割に こぢんまりしていてぼろい。
日が落ちてしまうと商店街に混ざって、はじめて訪れたものには駅らしく見えなかったりする。
ぼくらは駅間近の海岸沿い直線コースのどこかで立ち止まり潮の匂いを嗅ぎ、汚れた海面に反射する光の束をじっと眺めた。
この頃には 寒さが直接皮膚にまで浸入していて、コートの内側にさえ温度がないように感じられた。
彼女の手も顔も海からの風に撫でられて真っ白。頬の赤みもない。
ぼくは彼女の指先をなんどもこすって摩擦で熱を戻そうとしたけど効果はなかった。ポケットから指を出し、外気に触れたとたん感覚がなくなる。
彼女の頬を触っても自分の指先に触感がなく、頬は冷凍されたあと 常温で自然解凍された肉みたいな不自然な柔らかさだった。
「夜景きれいだね」と彼女が言った。
「あの光にジャンプしたら すぐ死ねるかな」
「1分で死ねるかもね。充分に冷えてるし、あまり苦しまないでいいかもしれない」
彼女が本気で海へダイブするとは思えなかった。
ひどく落ちこんでいて、感傷的になってるのはわかるけど そんな思い詰めた雰囲気でもなかった。
彼女がジャンプするなら いままで何年もそのチャンスはあったはずだ。
ぼくは彼女の気が済むまで付き合った。
彼女の足が駅へむかって動き出すまで長いこと そこに佇んだ。
「ねえ。ヒロ」
「ん?」
とぼく。
「もしいっしょに死んでって言ったら、どうする?」
ぼくは笑った。
「死なないよ。絶対に。
ぼくは お姫様を東京へ連れて帰る。
あのホテルで暖かいコーヒーを二人で飲みたいから」
彼女は ようやく歩きはじめた。
クマを海に向かって突きだし、ちっちゃなフェルトの腕をつまんで海にバイバイさせた。
そのときぼくは、ここへ来る途中利用したタクの運転手を思い出した。あのおっさんの話だと、この直線コースの先に たしかラーメン屋があるはずだ。
美味いかどうかなんて、この際どうでもよかった。ラーメンのスープは どんな不味い店で食べたって熱いはずだ。
道の先に横須賀駅が見え、その手前に記憶してた店の名をみつけたとき、彼女も黙ってぼくを見つめた。
ぼくらは言葉を交わさないまま店のドア目指して早足で歩いた。
意外にもラーメンは美味かった。
彼女は熱いスープを ふぅふぅやりながら、鼻をすすり「ありがとう今夜」と言ってから、また ぐずぐず泣きはじめた。
587 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/03(日) 01:25:15
東京駅に戻ったときには日付が変わろうとしていた。
終電には まだちょっとだけ余裕があったけど ぼくらは道草しないで乗り換えホームを目指した。
ひどく寒くて寒すぎて笑ってしまいそうなほど寒かった。体ががたがた震え、治まったと思うとまた震える。
寒くて麻痺してた皮膚に まともな触感が戻ってきたと思ったら 今度は鋭敏すぎるほどで、彼女が絡めてくる指先が直接神経を刺激するみたいに ぴりぴり反応した。痛いほどだ。
ホテルに戻ったのが午前1時。
体に力が入りにくく、おかしいなと思いつつ フロントのソファに押しを下ろし コーヒーを注文して部屋に届けてもらうよう頼み エレベータに乗りこんだのが1時30分。
体が高熱を発して、とうとう倒れるようにベッドへ崩れ落ちたのが きっかり午前2時だった。
慌てたのが彼女だった。
どう見たって尋常じゃないぼくの赤くなった顔に驚き 額に手をあてて騒ぎはじめ、どこかへ消えたと思ったら解熱剤と風邪薬を持って戻ってきた。
ホテルの常備薬かな、とぼんやり考えながら飲む振りだけしてゴミ箱に捨てた。
いったん発症した風邪を押さえこむ特効薬なんてない。飲むだけ無駄だ。それに ぼくは薬が大嫌いなんだ。
彼女は ぼくを厄介事に巻きこんだと、ひどく後悔していた。こんな冷えこんだ夜に横須賀の闇の中へぼくを連れ出したと、本気で思いこんでいた。
それは ぼくが言いだしたことなんだ。
君じゃなくて、ぼくが連れ出したんだ。
ぼくが君を泣かせてしまった。
もしかすると姫様に会った最初の晩に、ぼくは風邪ウイルスに感染していたのかもしれない。
電車のつり革かもしれないし、会社の同僚のくしゃみを知らずに吸いこんだのかもしれない。
ひっそりと潜伏して、たまたま今夜発熱したんだよ。
ぼくは ゆっくりとそう話して聞かせた。子供を相手に話す口調で優しくいい聞かせた。
でも彼女は まったく聞き入れようとはしなかった。
あの神社の境内があまりに寒すぎたために、ぼくが風邪を引いた。
そう、まるで賽銭クジでも買ったみたいに、ぼくが風邪を引き当てたと本気で信じていた。
ぼくは眠った。
自分の意志とは関係なく、突然ひどい眠気に襲われて意識を失った。
それでも深夜に何度か目が覚め、人の気配を感じ、そしてまた眠る。
そんなことを何度も繰りかえした気がする。
傍らのすごく近い位置に姫様のかすかな匂い。
あの甘ったるい香り。
女のやわらかな体温。
姫様が ぼくの手を握ってくれている。
このまま死んじゃってもいいや。
こんなに平穏で静かで安堵できる暗がりに包まれて逝けるなら、それでもいいや、と思った。
588 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/03(日) 01:27:27
ぼくは夢を見た。
横須賀駅前の直線コース。
街頭の灯っていない暗闇の中をすさまじい勢いで滑空する。
タクで移動した道順をトレースして、ぼくはあの公園、神社境内に至る。
そこにあるのは あの夏の日。ぼくの知らない夕方。
子供達の笑顔の群れと高揚した声と騒がしい足音。
その先に白い服の少女がいて、ぼくをじっと見つめていた。
いや、ぼくを通過してぼくの背後にある何かを見つめていた。
ときどき蝉の声が聞こえた。
テレビから漏れてくるようにその音は鮮明で、ありえないほど近い。
ぼくは蝉の位置を探る。
少女が目の前にいる。
少女の手に握られたもの。
中国製の三十八口径。
首にはピンクのクマのぬいぐるみと、菊の紋章が刻印された赤いパスポートが下がっている。
少女は ぼくが見つめていることに気づいていないようだった。
素足で立ち、指先は泥だらけで、その指で鼻の頭を触ったために鼻の頭まで泥で汚れている。
その指先が三十八口径の遊底にも触れる。
遊低には遊びがあり、それが可動することがわかると指先は かちゃかちゃと音のする重たい金属を引っ張ろうとムキになる。
リコイルスプリングが、少女の指の動きに逆らって遊低を押し戻そうとした瞬間三十八口径は少女の手のひらで踊り乾いたパンという音をたてて地面に落下する。
一瞬のできごと。
たっぷりと汗をかいて目覚めるぼく。
目の前にホテルの部屋の天井があり驚いた姫様がベッド脇から立ち上がって ぼくを覗きこむ。
彼女は なにか言っていた。でもよく聞き取れない。
外は まだ暗い。何時くらいなんだろう。
そんなことをぼんやり考えていると、姫様がボカリスエットのペットボトルを口に運んでくれた。
ありがとう、も言えないまま ぼくは また眠りへと落ちる。
ひどくつらかった。風邪の熱も、いま見た夢も。
遠いどこかからバッハの無伴奏チェロソナタが聞こえてきた。
姫様がヘッドフォンつけてくれたのかな。ぼくのために。
音楽には傷を癒す力がある。
ぼくは そう信じて疑わないタイプだけど、彼女がしっかり握っていてくれる手のひらの触感には、とうてい及ばない気がした。
618 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/03(日) 16:34:16
6日目の朝。遅い時間。
姫様に揺り起こされて目覚めた。
最後の日だっていうのに、体がさっぱりいうことを聞いてくれなかった。
熱は いくらか治まってたけど眠くてしかたなかった。
彼女がコンビニで買ってきてくれたスープとパンを時間をかけて食べお礼を言って、彼女には もう帰るよう勧めた。
楽しかった新年の数日。もう充分だ。
これ以上引きとめても可哀想だし。
午後も眠って過ごしてしまうだろうし。
彼女は何も言わなかった。
ぼくの手からパンの包みをとって捨ててくれ、飲みきれなかったスープを引き受けてくれた。
それから彼女は裸になってベッドへ滑るように潜りこんできた。
ひんやりとした彼女の肌。シーツの衣擦れの音。
長い髪が、かわいいおっぱいに垂れてふんわり揺れる。
寝てないから、寝る。と彼女は言った。
午後から雨が降りはじめた。
ホテルの部屋は もの音ひとつなくて 午後の美術室みたいな冷たい静けさがあった。
サイドテーブルの上の時計の振り子がモーターの入ったガラスドームのなかで くるくる回転している。
午後1時を過ぎた頃に、彼女の寝息を聞いた。
ぼくの記憶は そこで途切れていた。
後に残ったのは浅い眠りの中で見た夢。
いまとなってはどうでもいい、アジアのどこかの街並みと一枚のフロッピィディスク。
619 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/03(日) 16:35:37
暗い部屋の中で また目覚めたとき 彼女はもういなかった。
クロゼットからも、バスルームからも彼女が ここにいた痕跡すらすべて消え失せていた。
シンクの回りにまき散らされた化粧品もベッド脇にあった紙袋の山も一切合切が突然この部屋から切り取られて魔法のように消失した。
電源が投入されて待機画面になったままのノートPC。
サイドテーブルにあった一枚のメモ。
ぼくはふらつきながら、トイレへ立ち、そのあとで冷蔵庫からペリエを取りだしてがぶ飲みした。
焦って飲んだせいで鼻に逆流して、止まらない咳になった。
日が落ちてから熱が体の内側から再び沸き起こり燃えるように熱かった。
体がひどくだるく、鉄みたいに重く、関節がぎしぎしときしむようだった。
ライトのボリュームに手を伸ばして なんとかねじることができた。
メモにに残された筆跡は達筆で、こう書かれていた。
また熱が出るのかな。
ちょっと心配です。
だからクマを置いていきます。
クマがヒロを見張っています。
このクマは わたしの命より大切です。
だから またわたしに電話して 必ずわたしのバッグに戻してください。
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ヒロの大切なお友達に連絡しておきました。
遅くならない時間に迎えにきてくれるはずです。
それまでベッドを出ないように。
おっけい?わかった?
恵子
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