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僕とオタと姫様の物語
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620 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/03(日) 16:37:36
姫様はアドリブがきく。

彼女のあどけない仕草とか細くて色っぽい声とか綺麗な顔立ちに誤魔化されて肝心なことを忘れていた。

頭のいいこなんだ。

姫様は。



部屋の電話が鳴り、フロントから来客を告げられた。

午後10時をまわったあたり。

部屋にオタが入ってきたとき、ぼくは床に座りこんで鼻水を垂らしていた。拭き取る気力もなかった。

「面倒かけやがって」

オタは入ってくるなりそう言った。

でも言葉ほど刺は感じられなかった。



ぼくはわけが分からずにオタにごめんと、なんども謝った。

オタは外に出るのが嫌いなんだ。ところが ここまではるばるやって来てくれた。ぼくのために。

オタは車を持っているヒキだ。

廃車寸前の四駆。


ぼくはその助手席に収まって鼻水を垂らし続けた。

車がウインカーを点滅させて どこかの交差点を曲がったときオタはこう言った。


「前言撤回だ。おまえの嬢様はできがいい。

できのいい女は おまえにはもったいない。

だからもう手を出すな。

ホテルの精算も済んでた。

送られて来たメールは丁寧で簡潔で、二重敬語もなかった。」


だから きれいさっぱり忘れろと言った。

おまえの手には おえない、と言った。

それから、ぼくは泣き出した。声に出して。

ほんとにごめんな。オタ。

愛してるよ。心底。


車が自宅に到着する前にぼくは嘔吐してゲロった。

四駆のシートに派手にまき散らした。

ところがオタは窓を開けただけで、何も言わなかった。



ぼくの手に握られたピンクのクマ。

鼻に近づけると かすかにミツコの香りがする。

姫様は、このクマがぼくを見張っているといった。

でも、それは違う。ぼくが このクマなんだ。

君のところへ帰りたくて胸が張り裂けそうだ。

ぼくは いつだって一秒たりとも間隔を開けずに君のことを考えている。

君の胸こそが ぼくのいるべき場所なんだ。



674 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/04(月) 23:20:35
7日朝。

重く辛い。

自室のベッドから這い出ることができたのは奇跡的だった。

また いつものように白いシャツに手をとおして、ネクタイを締める毎日のはじまり。体温計を見ると39度ちょい。最悪のスタートだ。

家でもめるのは勘弁だったから、何事もないように玄関を開け見慣れた商店街を抜け、駅へと向かう。

すれちがう女子高生の群れ。姫様といくらも違わない年の女の子たち。

ほんのちょっと人生のネジの調整が狂っただけで あの女子高生たちのようには笑うことのできなくなった姫様。


ぼくはポケットの小銭を自販機に投げ入れて、てきとうなボタンを小突く。出てくるのは お決まりの、どれを選んでも大差ない味の缶コーヒー。


ぼくは ひょんなことから、ふつうとは違う、スペシャルな女の子に出会った。

名はリカであり、恵子であり、姫様。

かつ、そのどれとも違うぼくの見知らぬ女性。


ときどき踏切の遮断機が閉じられ、車輪のついたでかい鉄の箱がいくつも とおり過ぎてゆく。

都心へ向かう人間専用コンテナ。その毎日の旅路は合計すると、きっと月よりも遠い。

ぼくは その旅路の途中で姫様を見つけた。

姫様は線路の脇を徒歩ですすむ難民だった。

色褪せたぬいぐるみが唯一の連れ。

小石につまずいただけで、終わってしまいそうな危なげな旅。


その連れは いまぼくの黒皮の四角い鞄の中にいて、持ち主の暖かい手のひらへ帰ることを切望している。

自分の居場所は姫様の ごちゃごちゃのバッグの中だと確信している。

昨夜、忽然と消えていなくなった姫様。

なんでぼくの手元にクマを残したんだろうな。

漠然とした考えが浮かんでは消えるけど、熱に溶けて頭からこぼれ落ちる。


そのうち電車がホームに滑りこんできて、ぼくは女子高生といっしょに押しこまれる。

軽量ステンレスとポリカーボネイトの無機質な筒。その内側では、ぼくは自分のふりをしながら呼吸する別の何かだ。

ネクタイモードに きっちり合わせることができる自分を、ぼくは誇らしく思ってるけどオタの冷ややかな視線を堂々と受け止めることができない。

ひょっとすると、憐れんでもらうのは ぼくの方なのかもな。

変化を嫌って生きてきたぼく。

置き去りにされたとき、ぼくはクマを握ったまま泣くことしかできなかった。


あの夏の姫様のように。

あの冬、弟に置き去りにされた姫様のように。



675 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/04(月) 23:21:26
出社して同僚と手のひらを合わせるようにして叩き合い 明けおめ と挨拶してデスクに座ってPCを起動する。

たった1週間ほど前にも、ぼくはここにいた。

あの日を大昔のように感じる。

たしか姫様からの営業メールが届いた日だった。

年末にひとつ面倒があり、晦日から日付が新年へと変わるまで同僚達と粘ったその痕跡がTFTに表示される。

素晴らしい仕事ぶりじゃないか。



誰しも仕事の精密な歯車になることは難しい。その困難さの履歴だ、これは。

ぼくは指の先で更新されたドキュメントを追い背後に立った背の高い男と含み笑いを交わした。

なんの問題もなかった。ぼくらの努力は報われて、万事は順調。

そんなわけでぼくは帰ることに決めた。なにがなんでも、すぐに電車に乗り、暖かい自室のベッドで眠ると決めた。

信頼できる同僚のアドレス宛に、そのいいわけを書いた短いメールを送信したときだったかな ケータイが震えて、メールを受信した。


 >クマ返せ~

 >電話しなさいってメモしたでしょ


姫様からだった。胸に生暖かい鼓動が一拍あって、それは鳥肌をともなって四肢の先まで広がった。

続けてもう一通。


 >ただいまデート美少女無料キャンペーン中!

 >1分以内にレスくれたヒロくんには、美少女添い寝の特典付き!

 >会いたいよ~。ヒロぉ


30秒ジャストでレスした。

会いたい とだけレスしてから、場所を追伸した。

美少女って微妙な表記には触れなかった。フロッピィのこともあるし。



676 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/04(月) 23:22:15
自宅最寄り駅のカフェ。

改札を通過する乗降客が見渡せる席に姫様はいた。

ぎこちなく手を振るぼく。

彼女は急いでやって来て、ぼくの額に手を当てると困ったような顔をした。熱があるね。ぜんぜんよくなってない。と言った。

彼女はスーパーに寄ってから行くと言い、タクを捕まえて ぼくを押しこんだ。風邪もここまでひどいと、歩くことさえつらい。


彼女はその日、フロッピィのことは ひと言も口にしなかった。

ぼくはというと、気まずさを感じながらも やはり口にはできなかった。そうしたとたん、彼女の触れてはいけない何かが溢れる気がしたからだ。

ぼくの知らない何か。だけど とてつもなく厄介だということは、なんとなく分かった。

彼女自身、おとぎ話の最初の滑りだしを どうやって扱うか もてあましているようにも見えたからだ。

どうしたことか罪の意識はあまり感じられなかった。もしかすると、ぼくは彼女の口から事の真相の一部始終を聴きたいと考えているのかもしれなかった。


目黒で過ごした夜の底に転がった、なめらかな彼女の背中。

ぼくはバッグの中身から逃げるように、彼女の細くて華奢な腕を求めた。

あの夜からぼくは ほんとうは知っていた。うすうす勘づいていた。

あの中身は ぼくには重すぎるんだってこと。

そして彼女にとっても。


でも、ぼくは そいつをブートしてしまった。

どこかでカチリと音がして、不可視のサーボモータが静かに作動をはじめ、長い夜を巻き取ってゆく。

もちろん停止スイッチなんてない。夜が巻き取られて消えてなくなってしまうまで機械の動作は続く。


そのとき ぼくは どこで何をやってるんだろうな。

少なくとも姫様は ぼくの側にはいない気がした。

頭が痛かった。熱はひどくなる一方だった。



タクが見覚えのある郊外型ショッピングモールの入り口で小さく旋回して震えて止まる。

姫様は ぼくのためにレモンと蜂蜜と それから何か細々とした雑貨を紙袋に詰めて戻ってきた。

それからショートケーキの小箱。

この前手ぶらだったから。と彼女は言った。



ぼくは鞄からクマを取りだして両手で支え、ぺこりとお辞儀させた。彼女の気遣いには、ちゃんとお礼しなきゃいけない。

彼女はクマの頭を見て笑った。

新しい帽子。ペプシのキャップ。

クマは ちょっとした帽子コレクターになりつつある。




今日書いてるときに流れていた曲

シャルロットマーティン/Charlotte Martin 「on your shore」



751 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/06(水) 00:08:39
タクが玄関前に横づけして止まると母が待ちかまえていたように玄関から出てきた。まるで ぼくの帰宅を知ってたみたいだ。

なんでだろう?たぶん不思議そうな顔してたんだろう。ヒロのお母さんに電話で連絡しておいた。と彼女は言った。

二度も突然やって来るわけにはいかないんだし。お互い様でしょ。と言って彼女は つくったような無表情になった。

彼女の顔から笑顔が消えると ひどく冷たく見える。彼女は ぼくが見たフロッピィのことをほのめかした。

ヒロのシステム手帳とケータイの中身ををすべて拝見しました。ヒロの住所と会社の住所。太田君の住所と、その他すべてのアドレス。重要なところはぜんぶわたしのメモリに転載済みなんだから。

まぢですか。

すると、ぼくのお気に入りのパンチラサイトもばれたんだろうか。ってことは、ほんとは制服ミニスカ好きってこともばれたんだろうか。

飲んでるときに教えてもらい、たしかURLを手書きで1ページに大きく書いたはずだ。彼女ならURLを一度開いてみるくらいのことはやったかもしれない。


それからオタ。ごめんよ。おまえの圧縮前の名まで知られてしまった。


ぼくは叱られた子供みたいに、シートで小さくなるしかなかった。クマを握ったままなので よけい間抜けに見えたはずだ。


母の小言が ぼくをとらえる前に、2階自室へ急いだ。

姫様も心得てて、母の注意を自分に集め、いつの間にか台所へとふたりで消えてしまった。

シャツを脱ぎ捨て、ネクタイを放り投げ、ユニクロのスウェットに着替える。

カーテンを開けると、灰色のたくさんの雲に反射した光が部屋の中に溢れた。よく晴れた日の日射しは部屋に暗い影をつくる。


曇った日のほうが部屋の中は明るい。均一にまわった光の中では、ぼくの部屋は あまりにもふつーに見えた。

なんの面白みもない、個性の欠片すらない仕事に忙しい独身男の部屋。やたらと山積みになってる音楽CDも、沢山の雑誌も音楽に造詣深いっていうよりは刹那的な趣味。

むしろオタクの嫌な臭いが漂ってきそうに見える。


ベッドに潜りこむと、ぼくは落ちるように眠った。

眠りに落ちながら、階下で姫様の笑う声を聞いた。

細くて高いのに ちっともうるさくない。子守歌には最適の音域。

その子守歌には間違いなく、ぼくを包みこんで落ち着かせてくれる魔法のような力があった。

眠りの導入をうながしてくれる、日なたの匂いにも似た清潔な安心感があった。








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