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僕とオタと姫様の物語
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306 名前:70 ◆DyYEhjFjFU  sage 投稿日:04/10/10(日) 23:10:51
ベッドに横になってると思い出すのは あのチャットルームだった。

音楽系のBBSとチャットで構成された かなりいいかげんな、どこかのクラブサイト。

なにげにふらっと立ち寄って、すぐに出て行くつもりが どうしたことか そこに明け方まで滞在することになった。

何人かの女の子と雑談して、馬鹿馬鹿しくなり出ていこうとしたとき、ぼくは風変わりなハンドルネームを見つけた。


名は「窒息しそう」

メッセージは「ふつーにお喋りしてくれるひと希望」

たったそれだけの文字が みょうにひっかかって、ぼくはログインした。

他の書きこみは かなり過激で「今夜いっしょにいてくれる男の子」とか あからさまに一夜の値段を表示してるものまであったと思う。

後で聞いた話によると、そこは風俗嬢が待ち合わせに使うサイトだったらしい。

クラブ主催に見せかけたのはパトロールの目を欺くためか。

いや、クラブ主催はほんとうかもしれないけど そこの常連は風俗嬢とそのチラシ的な文字の羅列。

ぼくは知らずに そこへ迷いこんだ。



307 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/10(日) 23:11:44
そこで見つけたのは 渋谷のネオンサインが遠のいて消えてしまうほど綺麗なお姫様だった。

無料だったし、三時間くらい話こんだかな。

気づいたら明るくなりはじめてて、バイバイする直前に ぼくらはクリスマスイブにデートの約束をした。もちろん有料で。

姫様が捨てアドに画像を送信してきたとき、ぼくは目を疑った。

嬉しいというより、からかわれたという失意に沈んだ。

会えないのかもな。

当日ぼくは のこのこ出かけて行き、そして姫様を見つけて驚喜した。有料なんだぞ、と自分に言い聞かせた。指一本触れられないんだぞ、と。

でも高揚した気分は そんなことじゃ おさまらなかった。

テレクラの約束の成功率は2割にも満たないと聞いたことがある。

会った相手に満足したかってことになるとこの数字は さらに急カーブを描いて低くなるんだろうな。

この数字が正確だとすると、ぼくは奇跡に遭遇したことになる。




308 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/10(日) 23:12:26
仕事で打ち合わせがハネたあと会社に戻る前に ひとりでスターバックスに寄って それからHMVとかタワーレコードを冷やかしにいく。

学生の頃は中古CD屋で粘って月50枚近く買いこむこともあった。

何年か そんなことを繰り返すと月に何百枚買おうが、1枚だけだろうが好きになる曲の絶対量に変化がないことに気づいた。

働きはじめると、ぼくのうろつく場所はタワーレコードなんかの大型店舗に限られるようになった。

欲しい新譜は発売日から数日以内に買ってたから冷やかしに行くっていうのは ほんとだ。そんなときは買うことなんて滅多にない。

ぼくの部屋のCDの量は日に日に膨張する傾向にある。買いこむ速度よりも早く。



309 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/10(日) 23:13:41
ベッドの下やクロゼットや押し入れは本来入っていて当然のものが入っていない。

そこには、もう絶対に聴くことのないCDが整理されずに詰めこまれている。

今夜も その廃棄処分決定済みのCDの山の中から一枚を選んで再生する。買った記憶すらない一枚。はじめて聴く音。


そうやって何夜過ごしただろうな。

姫様の声を間近に聞いていたことが現実的じゃなくなって あの肌の感触とか、髪の毛の匂いとか そういう欠片を思い出すのが難しくなってきた頃 姫様はぼくに電話をよこした。

場所は空港のカフェ。

背景音はなく、おそろしく静かで姫様の声に はっきりと輪郭があって ぼくはCDの再生をストップした。


「会いたいよ。ヒロ。いますぐ会いたいよ」



310 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/10(日) 23:14:51
大急ぎで着替えて家を飛び出した。

飛行機の到着時間から考えても姫様が連絡をよこした時間は かなり遅かった。

質問はしない約束だし、不可解な行動はいまに始まったことじゃない。

ただ顔が見たかった。



待ち合わせ場所は恵比寿。

今夜は ゆっくりしたいからホテルを予約してあると言った。

最初に姫様の口からそのホテルの名を聞いたとき自分の耳を疑った。どこかの公園かオープンカフェの名かと勘違いした。

超高級ホテル。遠くから見たことしかない。


普段は滅多に着ることのない、それっぽいスーツを引っ張りだしクリーニングから戻ってきて そのままになってたシャツを着て ぼくは駅へと走った。


駅前の商店街は賑やかで いつもたぶん このくらい賑やかなんだろうけど ぼくの目には鮮やかに彩色されてより鮮明に見えた。

露店のホロに下がったハロゲンランプ。

呼びこみのおっさんの声。

チャリの長い列と生鮮食材の臭い。

ホームで電車を待つ時間がもどかしかった。

急げ。



今日書いてるときに流れていた曲

ホワイトストライプス/White Stripes 「white blood cells」



358 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/11(月) 16:54:11
ホテルに到着してフロントで名を告げると なんだかやたら それっぽい金属にルームナンバーの刻まれたタグ付きのキーを渡された。

先に部屋で待っててほしいということだったけどフロントのピカピカの黒の大理石の床を横切って入り口が見渡せるロビーのソファに腰を下ろした。

一時間近く待ったかな。

フロントに近づく見慣れた人影。

想像してたよりも手荷物は少ない。

銀色の髪留めが後ろ頭にくっついてた。


ぼくはすっと立ち上がってエレベータホールに向かう彼女のあとを追った。

まったく気づいていない。


エレベータが到着して乗りこむとき、ぼくは彼女の視界を避けて背後にまわりこんだ。

目的のフロアのボタンを押す彼女。広いエレベータの中は ぼくらだけだった。

「おかえり」とぼくは言った。


静かな恐怖に襲われて反射的に正面のドアにぶつかる彼女。

くるっと後ろをふり返ったとき目が合った。

その瞬間 彼女の顔がほころんで、それから涙ぐんだような表情に変わった。

ぼくの首に腕を回す彼女。

彼女が泣きそうになっているのは再会できた喜びからだと思ってた。

彼女は ぼくにしがみついてこう言った。

「カナが帰ってこないよ」




359 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/11(月) 16:55:53
ホテルの部屋は広くて、ぼくらは その広さをもてあました。

贅沢な調度品。でかいベッド。

そのぜんぶがぼくらには不釣り合いだった。

カーテンを開けると一枚の大きいガラスがあって そこから渋谷の夜景が見渡せた。

渋谷の街は昼間みたいに明るくて、その光が部屋の壁に反射して入り口のドアあたりに深い影をつくってる。


明かりを消したまま部屋の隅に まるまってその暗がりに腰を下ろす彼女。

ぼくは あの綺麗なライオンみたいな女の子を思い出してた。

しなやかな体。俊敏そう。どんな声だったかは もうわからない。

彼女は何も言わなかった。ただ ぼくにしがみついて震えていた。


彼女の髪にぶらさがった銀色の髪飾り。

それは よく見ると安っぽい一枚のブリキのような金属でインドの象の神様が切り絵みたいに刻まれてある。きっとデリーあたりで拾った彼女の言うかわいいモノなんだろう。

彼女の髪を束にして なんとかまとめてあるけど 髪留めとしては頼りない。彼女が横になって寝返りをうてば折れて曲がってしまいそうだ。


ぼくの知らないインドの街。

オタがよこした画像の数字に従って彼女は動いたんだろうか。

折れ曲がったデリーの夜の闇。

そこにひっかかってカナが帰ってこないって意味なんだろうか。



360 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/11(月) 16:56:50
ぼくはなにも訊かなかった。

しばらくして彼女はようやく、ただいまと言った。

すごい会いたかったとも言ってくれた。


彼女はバッグを がさがさとひっかきまわして綺麗に包装された万年筆でも入ってそうな長方形の箱といろんな種類のタバコの詰め合わせを取りだし お土産だと言ってぼくに渡してくれた。

クラッカーみたいだったりチョコレートかあめ玉みたいな派手でかわいいパッケージ。とてもタバコには見えない。


彼女は長方形の箱の方は、まだ開かないでほしいと言った。

開くべきときが来るから、と言った。

ぼくは素直に頷いて、彼女の手を握る。

ベッドに誘ったのは ぼくからだった。



深夜近くに雨が降り出して ぼくらはベッドを抜けだし雨に霞んでゆく渋谷の街を ぼんやり眺めた。

そのときだったかな彼女が おかしなことを言いだしたのは。


「ヒロってさ、映画とか好き?」

「うん。ふつうに好きかな」

「ストーカーって知ってる?こわい映画。観た?」



361 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/11(月) 16:57:59
だしぬけになんだろうと、いぶかった。

そのタイトルから連想するのは ふつう犯罪のそれだけど彼女がパッケージの写真を描写しはじめたときに それが何かわかった。

タルコフスキーのそれだ。


ぼくは頷いただけで詳しくは話さなかった。

不思議な映画だね、とだけ言った。

彼女が その映画について何か話したそうだったし その内容が映画好きのもったいぶった感想なんかじゃないことは推察できる。

彼女は小さな指先でガラスをつつき なにか絵でも描くように さっと滑らせた。

「雨」と彼女は言った。


あの映画の中にも たくさんの水が使われてる。

指先にはたくさんの水滴があった。

彼女はガラス越しに とんとんと、流れ落ちる水滴を爪先でつついていた。



今日書いてるときに流れていた曲

レッドホットチリペッパーズ/RedHotChiliPeppers 「californication」



426 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/13(水) 19:22:32
彼女は その映画をどこで観たんだろう。

もう古いし、それにかなりカルトだし。

どう考えても彼女が楽しめるような心温まる物語じゃない。

ところが彼女の話を聞いていると、観たのは一度だけではなかったみたいだった。

その記憶は ぼくよりも鮮明で、彼女の話で思い出したシーンもあったくらいだ。

「どこで観たの?」

「インド」

ぽつっと彼女は言った。

「へぇ。劇場公開なんてしてるんだ。すごいな」

彼女は違うと首を振った。そうじゃないの。

ビデオ機材と観客席を備えたバーみたいなのがあって劇場公開の少ない海外作品ばかりをずっと流してる。

インドの人ってね、映画が大好きなの。


ヒロは驚くかもしれないけど、インドにはクラブだってあるしミニスカートの女の子だっていると言った。

「ストーカーっていう案内人がいて、ふたりのお客がいて ものすごく危険なゾーンに入っていくでしょ。ゾーンのまわりには警官がいっぱい。軍隊だっけ?」

どっちかは忘れた。

「だね。入っていった人たちは まず帰ってこない。運がよければ何かを持ち帰れるんだけど」


「そう。みんな帰ってはこないの。カナみたいに。みんな死んじゃう」


そこまで話してようやく ぼくは気づいた。

彼女は案内人よって導かれるツアーの客人だ。その危険な旅の参加者に自分をなぞらえようとしている。






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