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僕とオタと姫様の物語
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427 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/13(水) 19:24:00
観客の心境は複雑だけど、映画の内容は単純だ。

ゾーンって名付けられた場所、ブラックボックスがあって そこは国が封鎖している。そこが何なのかは誰にもわからない。

そこに忍びこんで生還したやつは財宝を山ほど手にいれている。巨万の富。

だけどゾーンに無数に転がっている無惨な死に、見合うのかどうかは ぼくにはわからない。

彼女が まわりくどいやりかたで ぼくに そんな話をするのは なんとなくわかった。


きっとその映画をビールでも飲みながら たまたま観たんだろうな。暇つぶしも兼ねて。どこの誰とも知らないやつを待ちながら。

で、彼女は震えあがった。

ゾーンの観光客と自分を重ねあわせた。いつかは自分も ああなるんだと。



こんな話を聞かされてるのにぼくは なぜか冷めていた。たぶんあのフロッピィに触った夜から なんとなく気づいてたんだろう。

彼女は嘘をついた。あのフロッピィの中身は これ以上ないくらいヤバイ。

財宝のうわさ話とデリーって名の迷宮の地図。

そこへの片道切符。



429 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/13(水) 19:25:06
彼女はインド門とローディ庭園で同じ男を見かけたと言った。

彼女は そこでは観光客だった。

日本製デジタルカメラをぶら下げ、日焼け止めもばっちりに日本から はじめてやって来た、ペダルタクシィと土産売りのいいカモ。

観光客が たまたま同じコースを辿ることはよくあるじゃないのかな。

彼女は首を左右に振った。

これはちっとも楽しいことじゃない。

男は インド人でクルターを着ていた。下はデニム。

どうもしっくりこない。目の前の風景に安心できるような自然さがない。

背筋が凍りついたと彼女は言った。


パスポートを作り直さなきゃ。

髪型も違えて…

そこまで言って急に黙りこみ甘えるみたいに ぼくにもたれかかった。

彼女を抱きしめて髪に触れると彼女の唇から漏れるぶっそうな話が、まるでお伽噺みたいに聞こえる。

お伽噺の残酷さが、お話の中では正義にすり替えられるように彼女の口調は あっさりぼくを落ち着かせる。

「カナへいきかなぁ」

目を閉じたまま そう言った彼女は すぐに寝息をたてはじめた。

よほど疲れてたんだろうな。



今日書いてるときに流れていた曲

ベンフォールズファイブ/Ben Folds Five 「whatever and ever amen」




455 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/14(木) 00:23:37
彼女をベッドに寝かしつけたあと しばらく ぼけっと暗闇の中に佇んでいた。

彼女の言ったことを頭の中で反芻して考えがまとまるまでは彼女のそばにいた。

彼女は なぜかうつ伏せで眠る。

深い眠りがやってくるまで その状態で腕を曲げ中指の背に唇をくっつけて眠る。


かたちのいいおでこをつつくと、眉間にシワを寄せてむづがる。子供みたいだ。

彼女の手首を そっと握ってみる。反応はない。

ぼくはライティングデスクの明かりだけつけてPCを起動した。


さすがはいいホテル。DELLのノートまで備え付け。

はじめて触る型は文字が打ちづらくて肩が凝るけど今夜は気分がよかった。今夜のぼくは ひとりじゃない。

彼女の寝息、わずかに上下するリズムを感じることができる。

ぼくはオタにメールした。



456 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/14(木) 00:24:36
彼女の告白を疑ったわけじゃないけど、その背景が知りたかった。

そんなものがもしあれば、だけど。


帰国しない日本人女性のこと。

理由や原因はなんでもいい。

年間どのくらいの数になるのか それだけでもいい。

ふつうの人には彼女の話は荒唐無稽だ。


だけど そこに秩序を与えて真実かどうか判断できるやつだっている。そいつは ぼくの友人だったるする。

オタは動く闇、日々更新される情報の番人だった。アンダーワールドの。

オタは芸能人とかプロ野球の試合結果とかロックには まったく無関心だけど どこかの自殺志願者にせっせとメールを送ったり大阪の町工場のアドレスをもとに どのくらいの資材が動いたかとか、そんな調査には余念がない。


オタは部屋から出ず、かつ餓死することもない。

それどころか身だしなみには うるさかったりする。

このふざけた矛盾。

普段外出しないオタが運動靴を欲しがるのは皮肉なことだ。そのコレクションは本人によると かなり すごいらしい。

オタは一銭にもならない個人的なハッキングやクラッキングには興味がない。

オタは情報の流れの中に眠る砂金を拾う。

つまり、ヒキのくせに ぼくよりはリッチだってこと。

やつが見守るデータは かなり信頼できるってことだ。



457 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/14(木) 00:25:39
メールを送信してタバコに火をつけ彼女の寝顔を見てたら無性にコーヒーが飲みたくなった。

ルームサービスを呼びだし注文を聞いてもらって届くまで5分もかからなかった。

ドアがノックされるのと ほとんど同時だったかな。オタがレスをくれたのは。

 >すぐに調べてみる。

 >その前に こんな話なら聞いたことがある。



458 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/14(木) 00:26:39
 >CBSの60ミニッツでも取り上げられたほど厄介な事件だよ。

 >旅行先で たまたま知り合った現地の人間に

 >旅行費用を出してあげるかわりに

 >君の国に住んでる依頼者の家族に荷物を届けて欲しいとか

 >なんとか頼まれる。

 >なんてラッキーなお話。ところが荷物の中身は白い粉。

 >甘言に釣られて荷物を運ぶと運悪く空港のセキュリティに

 >ひっかかってそのまま牢獄へ直行。二度と出国できない。

 >裁判もない。

 >牢獄で自殺した白人女性は かなりの数に上るって話だ。

 >ただ、嬢様の場合は ちょっと複雑だな。日本人だし。

 >フロッピィの中身から推察すると、彼女は何かを運んでる

 >みたいだけど薬物とかそんな分かりやすいものじゃない

 >ような気がする。

 >とにかく一晩欲しい。わかることは すべて教える。


おまえは物知りだな。オタ。

でもなんだか楽しくないよ。愉快な話を期待してたわけじゃないけど。



今日書いてるときに流れていた曲

ベンフォールズファイブ/Ben Folds Five 「whatever and ever amen」




514 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/14(木) 23:30:01
彼女と出会っていくつめの朝だったのか もう憶えてない。

午前中にホテルを出て ふたりで恵比寿駅まで歩きぼくは会社へ、彼女は渋谷へ戻っていった。

今夜は遅くなりそう。

そう言ったのは彼女のほうだった。


お土産の包みを絶対になくさないように。

それから今夜も ここへ戻ってきて欲しいと。

会社でのぼくは死んでいるようなものだった。


体調が悪いと会議をすっぽかし、近くの公園で眠りオタからケータイとPCに送られてきたメールを確認した。

オタは一晩待ってほしいといったけど まったくお手上げな状態らしく とにかく時間が もっと必要だと繰り返した。


公園の午後は のどかだった。

以前ならベンチに腰掛けて放心しているリーマンを理解することはなかった。

だけど いまのぼくは完璧なそのコピペだ。

ハトが群がってきては飛び立ち、頭上を旋回してまた舞い戻ってくる。

どうしようもなく平和な風景。

ところが その裏側では正確に巻き取られてゆく夜がある。

それはつねにセットで 裏と表の絵柄がまったく違うトランプのカードみたいだ。

表はきっちり格子の決まりきった退屈な幾何模様。

裏は欠けた月。ジョーカー。



515 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/14(木) 23:30:39
日が落ちるまえに渋谷へ向かった。

恵比寿の隣だから、その気にさえなれば歩いてホテルへ戻ることもできる。

ぼくは西武デパートの1階フロアを ぶらぶらうろつき きまぐれでミツコゲランをひとつ買った。

いかにもな仰々しいデザインの瓶。

コピーを読んでみると、生産開始から80年が経過と書いてあった。姫様の年で使うには ちょい早いのかもな。

一度だけ姫様が その瓶をホテルの洗面台シンクの縁に放ってたのを見たことがある。

他のいろんな化粧品に混ざってた。

そんな光景が目に入ってくるのは嫌いじゃなかった。

姫様が そうやって自分のまわりにまき散らした風景。

椅子の横に立てかけたブーツ。

ベッドに置かれたコートとミニスカート。

目黒のホテルでまき散らされたバッグの中身は中でも印象的だった。


ピンクスケルトンのフロッピィディスク。

いまでは思い出しただけで胸が痛い。

歩こうと思った。

ゆっくり歩いたって姫様より早く到着しそうだ。

パッケージを破ってシンクのとこにそっと置いておこう。

姫様は気づかずにバッグにしまってくれるかもしれない。



516 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/14(木) 23:31:39
ベッドで うとうとしているとケータイが鳴った。

姫様からで、ロビーまで降りてきてほしいということだった。

せっかく恵比寿にいるんだしラーメンでも食べようよ。



ぼくが驚かされる番だった。

ロビーのソファでコーヒーを飲んでた見知らぬ女性は姫様で背後をとられて頭を小突かれてしまった。

短く切られた髪。

色はもっと明るくなってグリコのキャラメル。

黒い日本人女性の瞳。カラコンはしてない。

どんに雰囲気をすり替えても綺麗だった。


ぼくらは手をつないで恵比寿の長い坂を駅の方へと下った。

ラーメンを食べようってことだったのに どこの店に行くのかは決まっていなかった。

ぼくらはゆっくり歩いて、むしろそれを楽しんでるようだった。


「ヒロってさ。なぜわたしの手を握っててくれるの?」


駅を過ぎて代官山へ。

車の騒音に消されそうで はっきりと聞きとれなかった。

でも彼女が何を聞こうとしたのかはわかる。

ぼくは何も答えなかった。聞こえないふりをした。

口にするのが照れくさかったせいもあったと思う。


ぼくは声にすることなくこう言った。

それは姫様が髪に触れることを許してくれた最初の女の子だったからだ。

ぼくを必要としてくれた最初の女性だったからだ。






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