2chの男女恋愛に関わる 復讐話寝取られ話旅スレ に特化した話題を掲載していきます。
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みんなの大好きな、みどりいろのあいつの話
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90 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 13:21:00.86 ID:GxPuxG5u0
ロックは立ち止まり、ジュークに視線の高さを合わせて、言った。

「ジューク、確かに、自分を機械だと思えば、

自分を人間だと思ってるよりは、ずっと楽に生きられる。

そう思わないと耐えられない時期があったのも分かる。

でも、ジュークは間違いなく、人間なんだよ。

一緒に暮らしてる、俺が断言するんだ。

ジュークにはこれから、普通の生活を送ってほしい。

幸い、俺には自由にできる金がいくらでもある。

そう、できることなら、どうにかしてジュークを、ハツネになる前の姿に戻したいとも考えてるんだ。

そうすれば、学校だって通えるだろう?」



91 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 13:38:12.85 ID:GxPuxG5u0
ジュークは困ったような顔をした。

それから、ふと視線を上に向けて、電線にとまっている数千羽のカラスを見た。

「すごいからす」ジュークは話題を逸らすように言った。

「最近、カラスが増えてるんだ」とロック。

「他の街から逃げてきたって噂もある。向こうじゃ音響兵器の実験が盛んだからって」


ロックは「ぶぅいん」という奇妙な振動音を聞いた。

直後、電線に止まっていたカラスの大群が、一斉にボトボトと地面に落ち始めた。



95 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 16:34:27.47 ID:GxPuxG5u0
夕焼けの中、黒い塊が次々と空から降っていた。

たちまち辺りにカラスの死体が積み上がっていった。

生き残ったカラスたちは一斉に非難し始め、夕焼けに染まっていた空は真っ黒になった。

その場にいた人たちは皆、その光景に見とれていた。

あまりに非現実的な光景に自身の目を疑ったのか、悲鳴を上げる人は一人もいなかった。

カラスは地面に落ちる前から死んでいた。

それをやったのがジュークだということは、ロックにも何となくわかった。



96 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 16:48:55.25 ID:GxPuxG5u0
「これでも、にんげんといえますか?」

ジュークはロックの顔を見ずに、そう言った。

ロックは何を言えばいいのか分からなかった。

「さいきん、おもいだしちゃったんです。じゅーくって、おんきょうへいきなんですよ」

「音響兵器……」とロックは繰り返した。

こんな馬鹿げた出力の音響兵器なんて、ロックは今まで聞いたことがなかった。




97 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 17:12:50.34 ID:GxPuxG5u0
二人は無言で帰り道を歩いた。

家に着くと、ジュークは寝室にこもった。

毛布を頭からかぶって、体を丸めた。

しばらくして、ロックがドアをノックした。

ジュークは「ねてます」と答えた。

ロックはジュークのベッドに腰かけた。

「さみしいのか?」とロックは聞いた。

「ヴォーカロイドは、さみしがったりしません」

ジュークは毛布の中からそう答えた。

「かわりに、さみしいうたをうたうんです」

「なら、人間と変わらないさ。大勢の人が、そうやってさみしさと戦ってきたんだ」

そう言って、ロックは毛布の上からジュークの背中をなでた。



98 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 18:20:34.40 ID:GxPuxG5u0
ジュークはさみしい歌をうたった。

夕日坂、とかいうオールディーズだった。

ロックは毛布をめくって、ジュークをそっと抱き寄せた。

「ますたー、これじゃうたえません」

そう言いつつも、ジュークは両手をロックの背中に回した。

ロックはジュークの首の後ろをさすりながら言った。

「大丈夫だジューク、ちゃんと残ってる。あったかいものを、俺はジュークから感じられる。ジュークは人間だよ。俺が保証する」

でもそんなことは、ジュークにとってはどうでもよかった。

ますたーのいるところにいられれば、それでいいや。



99 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 21:16:43.48 ID:GxPuxG5u0
後日、ロックは その手のことに詳しい男に連絡を取った。

「音響兵器のことで、調べて欲しいことがある。

かつて、ヴォーカロイドってものがあっただろう?

あれと、音響兵器の関連を調べて欲しいんだ」


一カ月後、相手の男から連絡が来た。

ロックは近所のバーでその男と落ち合った。

男は資料をロックに渡し、言った。


「一体どうやって行きついたのか知らないが、

ロックンローラーさん、あんたの勘は正しいみたいだな。

ボーカロイドと音響兵器に関わる、きな臭い話が一つある」



101 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 22:20:22.63 ID:GxPuxG5u0
「三十年ほど前、まさにボーカロイドの最盛期、もちろん公にではないが、あるプロジェクトが始まった。

楽曲になぞらえて、『初音ミクの開発』と呼ばれたそうだ。

名目は本物のヴォーカロイドの開発だったんだが、実際にやってたのは、人型音響兵器の開発さ。

歌で世界を物理的に変えるシンガーを作ろうとしていた。

だが結局、プロジェクトは立ち消えになったらしい。

奴らは調子に乗って、人体実験にまで手を出したんだ」


「ああ、そこまでは、実を言うと知ってるんだ」とロック。



102 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 22:27:22.46 ID:GxPuxG5u0
「俺があんたに調べて欲しかったのは、その人体実験に使われた女の子のことだ。

ハツネの姿そっくりに改造された女の子。

その子の、本当の名前、生まれ故郷、ハツネになる前の姿が知りたいんだ」

男は大げさに首をふった。

「さすがにそこまでは、俺には無理だな。

そもそも、人体実験に使うような子だ、多分、最初から住所も名前もないような子だろうよ。

今時誘拐とか拉致はリスクが高すぎるからな、それ用の人間が造られてるって考えるのが妥当だ」

そうか、とロックは空をあおいだ。



103 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 22:35:35.12 ID:GxPuxG5u0
「それはそうと、体の調子はどうだ?」と男が聞いた。


「まあ、最悪だな」とロックは肩をすくめた。


「肉体の拒絶反応が、ピークに達しようとしてる。歌うことをやめても、症状は悪化するばっかだ」


「そうか。まあ、俺がどうこう言う話じゃないが、残りの時間、せいぜい楽しく生きることだな。

最近のお前、ちっとも話題にならないし、つまらないぞ?

過去の事件なんて気にしてる場合じゃないと思うが」


「俺は楽しんでるよ。今、人生の絶頂にある」

ならいいんだけどな、と言って男は店を出ていった。




104 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 22:42:51.59 ID:GxPuxG5u0
家に戻るなり、ジュークが駆け寄ってきた。

「おかえりなさい、ますたー」

「ただいま、ジューク。夕飯にしよう」


「ますたー、どこにいってたんですか?」

「人に会いに行ってたんだ」


「ますたーなのに? めずらしいですね」

「俺だって人に会うことくらいあるさ」


「おんなのひとですか?」

「いや。俺と同じくらいの歳の、物知りな男だ」


「そうですか」ジュークは安心したような顔をした。



105 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 23:08:08.75 ID:GxPuxG5u0
「ますたーは、けっこんしないんですか?」食器洗いをしながら、ジュークはさりげなく聞いた。

「しない。だからジュークを雇ってるんだ」

「おんなのひとが、きらいなんですか?」

「そういうわけじゃない。現にジュークは好きだ」

ジュークは危うく皿を割るところだったが、なるべく平然とした顔で、「どうも」と答えた。

そういういみじゃないよね、ますたーだもの。



107 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 23:34:25.61 ID:xHPpuufW0
胸のあたりがきゅんきゅんする


108 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 23:44:23.92 ID:GxPuxG5u0
十月の末で、肌寒い夜だった。

「ますたー、きになるひとはいないんですか?」

「いるさ。というか、惚れてる相手がいる」

「……いがいです。どんなひとですか?」

「歌うのが好きで、体の一部が機械で出来てる」

ジュークはスカートの端をぎゅっと掴んだ。

わたしのことだといいな、とジュークは思った。

「まあ、もうこの世に存在しない人だがな。

かつて、一緒にバンドを組んでた相手だ。

俺とその子は、ホワイト・ストライプスみたいに、ギターとドラムの二人だけで活動してたんだ」



109 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 23:53:16.08 ID:GxPuxG5u0
「その子も俺たちと同じように、体の一部が機械だった。

でも、その子には機械の体が馴染まなかったんだ。

改造手術から一年で、拒絶反応を起こして死んだ。

どうやら、歌うことによって、寿命をすり減らしてたらしい。

洒落の分かるやつでさ、死に際、『デイジー・ベル』を歌ってたよ」


話を聞いて、ジュークはしょんぼりした。

わたしは、そのひとにはかてないだろうなあ。

「ジュークは、どうなんだ?」とロックが聞いた。

「ジュークは誰かに恋をするようなことはあるのか?」



110 :名も無き被検体774号+:2013/04/02(火) 00:05:57.02 ID:GxPuxG5u0
「ヴォーカロイドは、ひとをすきになったりしません」

ジュークはそっぽを向いて、そう言った。

「かわりに、あいのうたをうたうんです」

「そいつはいい。ロマンチックだな」

ロックがそう言うと、ジュークは立ち上がり、シンセサイザーを用いて、これまた古い歌を歌い始めた。

こーのーせーかーいーじゅーうでー 

だーれーよーりーもー

あなたーを 

すーきーでーいーいーかなー。


そんな歌詞だった。






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