バイト帰りに出会った女子高生との数年間の話
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198 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 13:44:48.93 ID:Q5UKg1qg.net
「お兄さんさ、今日何の日か分かる?」
いつものように うちに来ていた白石が俺に聞いてきた。
3月の末。新学期を間近に控えて浮き足立ったりする季節。雪もほとんど溶けかかった頃。
この日は勿論、白石の誕生日だ。
「んー?んー…マフィアの日だな…」
あらかじめ調べておいた答えを答えて白石の反応を伺う。
「え!?嘘!?」
「ホントだ。調べてみろ。」
「…ホントだった。」
「ほらな?w」
「そうじゃなくてさ!こうさ!何かあるでしょ!?」
むくれる白石をなだめるように、「はいはいwそう慌てんなってwちょっと待ってろ」
少し白石を待たせて隠しておいたプレゼントの箱を持ってくる。
199 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 13:47:03.59 ID:Q5UKg1qg.net
「え!なにこれ!」
「いや、だからプレゼントw」
「嘘!え、ホントに!?」
「自分で何の日かって振っといていうセリフか?それwまぁでも、あんまり期待するなよ?」
「開けるよ?」
手だけでどうぞと促すと白石は箱のリボンをこれでもかと言うほど丁寧にほどいて箱を開けた。
「・・・時計・・・?」
「ごめん。嫌だったか?」
「ううん、そんなことない!すっごく嬉しい!つけていい?」
確認するように俺を見るので頷くと白石は左手の時計をはずしプレゼントに付け替えた。
「・・・ちょっと大きいか?」
手首につけてみると僅かに大きいのが判る。
何度か握ったことのある太さだけが頼りではやはりぴったりのものは作れなかった。
「お店の方行ったら後でも修正してくれるらしいから今度行くか?」
「うん・・・うん!ありがと!大好き!」
抱き着いてくる白石に悪い気はしなくて、現金だなぁなんて言って俺は笑った。
200 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 13:50:07.80 ID:Q5UKg1qg.net
白石の受験が近づいていくと必然だが それまでよりも白石と会う機会は減って行った。
春先は三日に一回くらいだったのが、夏休みを挟むと一週間に一、二回になり、秋にもなると数週間に一度程度になっていた。
連絡は取るようにしていたので距離感が離れたと感じることはほとんどなかった。
それでも時間は過ぎていって、気が付けばすっかり季節が巡っていて、随分と昔に溶けたと思った雪がもう少ししたらまた降り出す時期になった。
「お兄さんさ、最近どう?」
その数週間に一度の日に、白石は出会ったときのように夜の公園でギターを手に俺に話しかけてきた。
「どうってのはまた抽象的な聞き方だな?・・・そうだな・・・」
思い返してみる。
大学に行ってそれなりに勉強して、空いた時間はバイトだったり伊達らと どこかに車で行ってみたり、十分に充実はしていると思う。
これ以上は贅沢だと思うほどに充実はしているものの・・・
「何か、物足りない・・・かな?」
201 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 13:52:47.93 ID:Q5UKg1qg.net
不思議なものだ。つい一年半前は知り合いですらない人間が、今ではいないと違和感を感じるほどになっているなんて。
「そっか・・・ふふ・・・そっかww」
「何だよ・・・不気味だなぁ」
「いや・・・同じこと考えてるんだなぁって思ってさww」
「・・・そうだな・・・」
きっと一緒に居られる時間は、もうそう長くない。少なくとも白石がここに居られる時間は。
それでも今は、少なくとも今は、現実から目を逸らしていることを分かっていながら俺は何も言わずに、ただ微笑んでいた。
202 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 13:55:24.77 ID:Q5UKg1qg.net
「じゃあ お兄さん!一年とちょっとを祝して・・・」
「それでいいのか?」
「じゃあ何に乾杯するの?」
「白石の合格を願おうぜ?w」
「じゃあそれで!」
『かんぱーい!』
白石はノンアルコールのジュース、俺はそんなに強くない日本酒を片手に乾杯する。
今日は聖なるリア充たちの日。
クリスマス・イブ。
本来であればキリスト教徒たちがキリストの生誕を祝う日の前夜祭である。日本においてはリア充の日でもいいじゃないかと個人的に思う。
「しかし受験生がこんなところでこんなことしてていいのかね?もう追い込みの時期だろ?」
「だいじょぶだいじょぶ。今日ぐらいはいいじゃんw」
「まぁ、白石が大丈夫っていうんならだいじょぶ何だろうが・・・じゃぁそうだな・・・今ぐらいは受験忘れて楽しむか。」
「ん?愉しむ?」
「おいこらそこww」
どうしようもない会話をしながら二人で笑いあう。
203 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 13:58:15.78 ID:Q5UKg1qg.net
抑圧からの解放からか白石の機嫌も いつもよりも幾分か良いようだ。
「どした?なんかいいことあったか?」
「んー?いや、何だかんだで一年以上も一緒に居たんだなぁって思ってさぁw」
「まぁ・・・そうだな・・・」
「それにその・・・」
「?」
「去年は、ほら、あんな感じだったじゃない?だから、今年はこういう風に居られて良かったなぁって・・・ww」
少し もじもじしながら白石は恥じらうように、それでいてとても嬉しそうに微笑んでいた。眩しすぎて正視できないのは俺の気のせいではないだろう。
「来年からは、きっと会うのも結構大変になると思うけど、これからも、こんな風に過ごせたらいいな・・・」
白石が口にする言葉は、きっと真実でその上現実味があって、受け入れたくなくて、どこか寂しげだった。
「うん・・・」
彼女に何と言うべきなのかという答えを、俺は持ち合わせていなかった。
「お兄さん・・・月・・・綺麗だよ・・・」
室内の、その上雪の降るこの日に月なんか見えるわけなくて、だからきっと、言いたいことは一つなのだろう。
「ああ・・・俺もそう思うよ・・・」
雪が降っているせいだろう。部屋は切り取られたかのように静かで外の音がほとんど聞こえなかった。
205 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 14:16:26.43 ID:Q5UKg1qg.net
白石はその日から連絡が取れなくなった。正確には俺の方から連絡を取らないようにした。
センター試験まで二週間を切ったのだからしょうがないが、何もしてやれないのかという無力感と、俺の事でもないのに名状のしがたい緊張感と焦燥感に駆られていた。
「小島君、最近落ち着きないよね?」
「そう、ですかね?」
だからジャムおじさんのこの発言にドキリとしたのは事実だった。
直前の模試はどうやら自分の中で一番いい成績を出せていたらしい白石だったが、それでも油断することなく勉強をしているらしく、自己採点の報告以降ほとんど連絡がなかった。
「もしね、君が迷っているならゆっくりでもいいからしっかりやっていくといい。君以外の事で焦っているなら・・・時間が経つまで待つしかなかったりするものだ。」
年寄りの独り言だよ。苦笑気味に店長は俺を優しく見ていた。
206 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 14:21:04.40 ID:Q5UKg1qg.net
『受かったよ!これで私も受験戦争と さよならだ!』
三月が目前まで来ていた二月の最期の週にそのメールは届いた。白石のこの一年の努力が報われたらしく第一志望の大学に合格したらしい。
「素直に喜べないんだろ?」
伊達は茶を淹れに行っていたはずが、いつの間にか後ろに回り込んで液晶画面を見てから俺にこういった。
「・・・さぁ?なんのこt」
「お前と一緒に居て何年になると思ってんだ。こんな時にそんな顔で俺に嘘つこうとしてんじゃねーよ。」
「俺はいつになったらお前に嘘をつけるようになるんだろうねぇ・・・」
「まだしばらく先だな。ま、その時まではお前の友達でいてやるよww」
で、と伊達は続ける。
「実際のとこどうするんだ?遠距離?」
「しかないだろうな・・・」
「あんまり勧めないんだけどな・・・」
伊達の言いたいことが分からないわけではない。どうしても身近な人間に頼りたくなるのが人だろう。
207 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 14:25:35.66 ID:Q5UKg1qg.net
「っていってもこれで別れるのはなぁ・・・」
「やっぱりあれか?自分以外の男と付き合ってほしくないとかか?ww」
「そうだな・・・俺より白石を幸せにできる奴がいるなら普通にそいつに任せた方がいいとは思う。」
「あー、青春すぎて身もだえするなww」
「茶化すな・・・でも、そうだな・・・」
「お?」
「出来れば俺が白石を幸せにしたいし、誰にも渡したくない・・・かな」
「小島・・・お前・・・そんなこと素面で言ってて恥ずかしくないのか?ww」
「お前から振ってきたんだろうが!!!!!」
俺の怒りの咆哮を受け流しながら伊達は笑って、「まぁでも、白石ちゃんとも話し合ってみろよ。それからでも遅くないだろ?」
「・・・だな。」
208 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 14:28:26.50 ID:Q5UKg1qg.net
どこかもの悲しい雰囲気、どこか空いた気がする距離感。ああ、そうか、もう、白石はいなくなってしまうのか。
「まだ決まってはないけどたぶん、三月の中旬ぐらいにはここからいなくなるかな。」
さも何気なく言っているように聞こえる。何気ないように見える。そんなわけないのは分かってる。
近くで見飽きるぐらいに見てきた白石の瞳が少し悲しみを帯びているのも、いつも楽しそうな言葉を紡ぐ上がった口角が些か下がっているのも、わずかに震えているように見える体も、もう、感じられなくなるのか。
「うわ!どしたのおにいさん?」
カップをテーブルに置いた白石を何も言わずに抱きしめる。
こんなに近くに感じるこの感触が、体温が、彼女の声が、もうすぐ手の届くところから消え去ってしまうのが、ただ怖かった。
209 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 14:37:33.32 ID:Q5UKg1qg.net
白石は俺を突き放すでもなく俺の方に腕を回してきて、
「・・・大丈夫だよ?長期の休みになったら帰ってくるし、その、私の所に泊まりにきてもいいし
・・・ただ、それより前に、私が会いたくなっちゃうかもねww」
心の覗いたかのように静かに俺に言う。その言葉に、腕の力が強くなる。
白石は俺とこのままの関係でいることを望んでいてくれている。言外に含まれたそのことの嬉しさを隠し切れない。
何をバカなことを考えていたんだろうと自戒する。
「ごめん、痛くないか?」
「大丈夫・・・もっとしてもいいよ?寂しいんだもんね?w」
「・・・うっせ」
それ以上の言葉はなかった。
白石に気を使わせてばっかりだ。駄目だなぁなんて思いながら、少しでも長く彼女の感触が残るように、ただただ抱きしめ続けた。
「落ち着いたら連絡するね。」
見送りに行った時の白石の最後の言葉は そんなので、本当にあっさりと物理的距離と言うもので遠距離恋愛カップルになった。
210 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 14:38:24.43 ID:Q5UKg1qg.net
「で?白石ちゃんとは うまくいってんの?」
五月の下旬の金曜日、突然の休講で四、五コマの無くなった伊達に誘われて早い時間から宅飲みをしていると話題はその話に向かっていった。
「んー?まぁ、ぼちぼちかな…」
「歯切れの悪い答えしやがって…一番最近白石ちゃんに会ったのいつよ?」
「三月…」
「は!?じゃあお前、白石ちゃんが引っ越してからあってないのか?」
「うん…」
呆れ顔でやれやれといわんばかりの伊達。
「GWとかあっただろうが…何やってんだよ…」
「ゼミの方とバイトで首回んなくて…」
一、二年の勉強不足が響いて今のゼミではついていくだけで容易ではない。
「お兄さんさ、今日何の日か分かる?」
いつものように うちに来ていた白石が俺に聞いてきた。
3月の末。新学期を間近に控えて浮き足立ったりする季節。雪もほとんど溶けかかった頃。
この日は勿論、白石の誕生日だ。
「んー?んー…マフィアの日だな…」
あらかじめ調べておいた答えを答えて白石の反応を伺う。
「え!?嘘!?」
「ホントだ。調べてみろ。」
「…ホントだった。」
「ほらな?w」
「そうじゃなくてさ!こうさ!何かあるでしょ!?」
むくれる白石をなだめるように、「はいはいwそう慌てんなってwちょっと待ってろ」
少し白石を待たせて隠しておいたプレゼントの箱を持ってくる。
199 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 13:47:03.59 ID:Q5UKg1qg.net
「え!なにこれ!」
「いや、だからプレゼントw」
「嘘!え、ホントに!?」
「自分で何の日かって振っといていうセリフか?それwまぁでも、あんまり期待するなよ?」
「開けるよ?」
手だけでどうぞと促すと白石は箱のリボンをこれでもかと言うほど丁寧にほどいて箱を開けた。
「・・・時計・・・?」
「ごめん。嫌だったか?」
「ううん、そんなことない!すっごく嬉しい!つけていい?」
確認するように俺を見るので頷くと白石は左手の時計をはずしプレゼントに付け替えた。
「・・・ちょっと大きいか?」
手首につけてみると僅かに大きいのが判る。
何度か握ったことのある太さだけが頼りではやはりぴったりのものは作れなかった。
「お店の方行ったら後でも修正してくれるらしいから今度行くか?」
「うん・・・うん!ありがと!大好き!」
抱き着いてくる白石に悪い気はしなくて、現金だなぁなんて言って俺は笑った。
200 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 13:50:07.80 ID:Q5UKg1qg.net
白石の受験が近づいていくと必然だが それまでよりも白石と会う機会は減って行った。
春先は三日に一回くらいだったのが、夏休みを挟むと一週間に一、二回になり、秋にもなると数週間に一度程度になっていた。
連絡は取るようにしていたので距離感が離れたと感じることはほとんどなかった。
それでも時間は過ぎていって、気が付けばすっかり季節が巡っていて、随分と昔に溶けたと思った雪がもう少ししたらまた降り出す時期になった。
「お兄さんさ、最近どう?」
その数週間に一度の日に、白石は出会ったときのように夜の公園でギターを手に俺に話しかけてきた。
「どうってのはまた抽象的な聞き方だな?・・・そうだな・・・」
思い返してみる。
大学に行ってそれなりに勉強して、空いた時間はバイトだったり伊達らと どこかに車で行ってみたり、十分に充実はしていると思う。
これ以上は贅沢だと思うほどに充実はしているものの・・・
「何か、物足りない・・・かな?」
201 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 13:52:47.93 ID:Q5UKg1qg.net
不思議なものだ。つい一年半前は知り合いですらない人間が、今ではいないと違和感を感じるほどになっているなんて。
「そっか・・・ふふ・・・そっかww」
「何だよ・・・不気味だなぁ」
「いや・・・同じこと考えてるんだなぁって思ってさww」
「・・・そうだな・・・」
きっと一緒に居られる時間は、もうそう長くない。少なくとも白石がここに居られる時間は。
それでも今は、少なくとも今は、現実から目を逸らしていることを分かっていながら俺は何も言わずに、ただ微笑んでいた。
202 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 13:55:24.77 ID:Q5UKg1qg.net
「じゃあ お兄さん!一年とちょっとを祝して・・・」
「それでいいのか?」
「じゃあ何に乾杯するの?」
「白石の合格を願おうぜ?w」
「じゃあそれで!」
『かんぱーい!』
白石はノンアルコールのジュース、俺はそんなに強くない日本酒を片手に乾杯する。
今日は聖なるリア充たちの日。
クリスマス・イブ。
本来であればキリスト教徒たちがキリストの生誕を祝う日の前夜祭である。日本においてはリア充の日でもいいじゃないかと個人的に思う。
「しかし受験生がこんなところでこんなことしてていいのかね?もう追い込みの時期だろ?」
「だいじょぶだいじょぶ。今日ぐらいはいいじゃんw」
「まぁ、白石が大丈夫っていうんならだいじょぶ何だろうが・・・じゃぁそうだな・・・今ぐらいは受験忘れて楽しむか。」
「ん?愉しむ?」
「おいこらそこww」
どうしようもない会話をしながら二人で笑いあう。
203 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 13:58:15.78 ID:Q5UKg1qg.net
抑圧からの解放からか白石の機嫌も いつもよりも幾分か良いようだ。
「どした?なんかいいことあったか?」
「んー?いや、何だかんだで一年以上も一緒に居たんだなぁって思ってさぁw」
「まぁ・・・そうだな・・・」
「それにその・・・」
「?」
「去年は、ほら、あんな感じだったじゃない?だから、今年はこういう風に居られて良かったなぁって・・・ww」
少し もじもじしながら白石は恥じらうように、それでいてとても嬉しそうに微笑んでいた。眩しすぎて正視できないのは俺の気のせいではないだろう。
「来年からは、きっと会うのも結構大変になると思うけど、これからも、こんな風に過ごせたらいいな・・・」
白石が口にする言葉は、きっと真実でその上現実味があって、受け入れたくなくて、どこか寂しげだった。
「うん・・・」
彼女に何と言うべきなのかという答えを、俺は持ち合わせていなかった。
「お兄さん・・・月・・・綺麗だよ・・・」
室内の、その上雪の降るこの日に月なんか見えるわけなくて、だからきっと、言いたいことは一つなのだろう。
「ああ・・・俺もそう思うよ・・・」
雪が降っているせいだろう。部屋は切り取られたかのように静かで外の音がほとんど聞こえなかった。
205 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 14:16:26.43 ID:Q5UKg1qg.net
白石はその日から連絡が取れなくなった。正確には俺の方から連絡を取らないようにした。
センター試験まで二週間を切ったのだからしょうがないが、何もしてやれないのかという無力感と、俺の事でもないのに名状のしがたい緊張感と焦燥感に駆られていた。
「小島君、最近落ち着きないよね?」
「そう、ですかね?」
だからジャムおじさんのこの発言にドキリとしたのは事実だった。
直前の模試はどうやら自分の中で一番いい成績を出せていたらしい白石だったが、それでも油断することなく勉強をしているらしく、自己採点の報告以降ほとんど連絡がなかった。
「もしね、君が迷っているならゆっくりでもいいからしっかりやっていくといい。君以外の事で焦っているなら・・・時間が経つまで待つしかなかったりするものだ。」
年寄りの独り言だよ。苦笑気味に店長は俺を優しく見ていた。
206 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 14:21:04.40 ID:Q5UKg1qg.net
『受かったよ!これで私も受験戦争と さよならだ!』
三月が目前まで来ていた二月の最期の週にそのメールは届いた。白石のこの一年の努力が報われたらしく第一志望の大学に合格したらしい。
「素直に喜べないんだろ?」
伊達は茶を淹れに行っていたはずが、いつの間にか後ろに回り込んで液晶画面を見てから俺にこういった。
「・・・さぁ?なんのこt」
「お前と一緒に居て何年になると思ってんだ。こんな時にそんな顔で俺に嘘つこうとしてんじゃねーよ。」
「俺はいつになったらお前に嘘をつけるようになるんだろうねぇ・・・」
「まだしばらく先だな。ま、その時まではお前の友達でいてやるよww」
で、と伊達は続ける。
「実際のとこどうするんだ?遠距離?」
「しかないだろうな・・・」
「あんまり勧めないんだけどな・・・」
伊達の言いたいことが分からないわけではない。どうしても身近な人間に頼りたくなるのが人だろう。
207 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 14:25:35.66 ID:Q5UKg1qg.net
「っていってもこれで別れるのはなぁ・・・」
「やっぱりあれか?自分以外の男と付き合ってほしくないとかか?ww」
「そうだな・・・俺より白石を幸せにできる奴がいるなら普通にそいつに任せた方がいいとは思う。」
「あー、青春すぎて身もだえするなww」
「茶化すな・・・でも、そうだな・・・」
「お?」
「出来れば俺が白石を幸せにしたいし、誰にも渡したくない・・・かな」
「小島・・・お前・・・そんなこと素面で言ってて恥ずかしくないのか?ww」
「お前から振ってきたんだろうが!!!!!」
俺の怒りの咆哮を受け流しながら伊達は笑って、「まぁでも、白石ちゃんとも話し合ってみろよ。それからでも遅くないだろ?」
「・・・だな。」
208 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 14:28:26.50 ID:Q5UKg1qg.net
どこかもの悲しい雰囲気、どこか空いた気がする距離感。ああ、そうか、もう、白石はいなくなってしまうのか。
「まだ決まってはないけどたぶん、三月の中旬ぐらいにはここからいなくなるかな。」
さも何気なく言っているように聞こえる。何気ないように見える。そんなわけないのは分かってる。
近くで見飽きるぐらいに見てきた白石の瞳が少し悲しみを帯びているのも、いつも楽しそうな言葉を紡ぐ上がった口角が些か下がっているのも、わずかに震えているように見える体も、もう、感じられなくなるのか。
「うわ!どしたのおにいさん?」
カップをテーブルに置いた白石を何も言わずに抱きしめる。
こんなに近くに感じるこの感触が、体温が、彼女の声が、もうすぐ手の届くところから消え去ってしまうのが、ただ怖かった。
209 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 14:37:33.32 ID:Q5UKg1qg.net
白石は俺を突き放すでもなく俺の方に腕を回してきて、
「・・・大丈夫だよ?長期の休みになったら帰ってくるし、その、私の所に泊まりにきてもいいし
・・・ただ、それより前に、私が会いたくなっちゃうかもねww」
心の覗いたかのように静かに俺に言う。その言葉に、腕の力が強くなる。
白石は俺とこのままの関係でいることを望んでいてくれている。言外に含まれたそのことの嬉しさを隠し切れない。
何をバカなことを考えていたんだろうと自戒する。
「ごめん、痛くないか?」
「大丈夫・・・もっとしてもいいよ?寂しいんだもんね?w」
「・・・うっせ」
それ以上の言葉はなかった。
白石に気を使わせてばっかりだ。駄目だなぁなんて思いながら、少しでも長く彼女の感触が残るように、ただただ抱きしめ続けた。
「落ち着いたら連絡するね。」
見送りに行った時の白石の最後の言葉は そんなので、本当にあっさりと物理的距離と言うもので遠距離恋愛カップルになった。
210 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 14:38:24.43 ID:Q5UKg1qg.net
「で?白石ちゃんとは うまくいってんの?」
五月の下旬の金曜日、突然の休講で四、五コマの無くなった伊達に誘われて早い時間から宅飲みをしていると話題はその話に向かっていった。
「んー?まぁ、ぼちぼちかな…」
「歯切れの悪い答えしやがって…一番最近白石ちゃんに会ったのいつよ?」
「三月…」
「は!?じゃあお前、白石ちゃんが引っ越してからあってないのか?」
「うん…」
呆れ顔でやれやれといわんばかりの伊達。
「GWとかあっただろうが…何やってんだよ…」
「ゼミの方とバイトで首回んなくて…」
一、二年の勉強不足が響いて今のゼミではついていくだけで容易ではない。
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