戦い
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「お前が嫌がっていたのは聞いていた。でも、どうしてキスされた時に抵抗しなかった?」
妻は弱々しい小さな声ですが、ようやく口を開き。
「抵抗しました。
課長に抱き付かれて抵抗したのに、強引にキスされた瞬間、あなたが入って来て・・・・・・・・・・・。」
「そもそも、何故あいつを家に入れた。少しは期待していたのだろ?」
「違います。帰ってくれる様に何度も頼みました。あのままでは近所の人に・・・・・・・。」
「近所に自分の事を知られるよりは、抱かれた方がいいと思った訳だ。俺が来た時 鍵が掛かっていたが、お前が掛けたのか?」
「抱かれるなんて、思ってもいませんでした。
課長が大事な話があるから、聞いてくれれば すぐに帰ると言ったから、玄関先で騒がれるよりはいいと思って。
それと、鍵を掛けたのは私では有りません。課長です。」
「鍵を掛けられたのを知っているじゃないか。普通そこでおかしいと思うだろ?
鍵を掛けられた時点で、何をされるか想像がつくだろ?
やはり野田の言っていた様に、自分に言い訳が欲しいだけで、抱かれたかったのだろ?
今日だけでは無い。今までも、無理やりされていると思いたいだけで、抱いて欲しくて野田のアパートに行っていたのだろ?」
「違います。そんな事有りません。違います。課長が、重大な話だから、途中で誰にも邪魔されたく無いと言ったから・・・・・・・。」
「美鈴、お前はどうして野田を そこまで信用する?
家に入れた時も、鍵を掛けられた時も、どうして信用する?
お前を脅して犯した男だろ?お前は俺に殺したいほど憎いと言っていたよな?
そんな憎い奴をなぜ信用する?
なぜ俺達の家に入れる?本当は野田の事を・・・・・・・・。」
今まで縋る様な目をしていた妻の目が険しくなり、
「違います。私が愛しているのは、あなただけです。あなたが好きです。あなたを愛しています。」
私は、妻の真意を計り兼ねていました。
妻の目を見ていると、本当に私を愛しているのだと思ってしまいます。
私の知人にも、若い時は真面目だったのに、歳を取ってからギャンブルに嵌ってしまい、未だに抜け出せない奴がいます。
また、昔は真面目で、隣に女の子が座る店でさえ、そんな店は汚らわしいと言っていたのに、女遊びに嵌ってしまい、離婚した奴も知っています。
妻も彼らと同じで、若い頃から超が付くほど真面目でした。
それが野田との不倫で、今までとは違ったセックスの良さを知ってしまい“こんな事はいけない、こんな事は止めよう”と思っていても、抜け出せないでいただけなのでしょうか?
しかし、自分は、人妻なのだから 夫以外を愛してはいけない、夫の事を愛していなければ駄目だと、思い込んでいる事も考えられ、
本当は野田の事が好きでも、世間一般の概念で許されない事だという思いから、野田への思いを閉じ込め、その裏返しに私の事を好きだと、思い込んでいる可能性も有り、
「本当に俺を愛しているのか?野田を愛しているのでは無いのか?」
「課長を愛してなんかいません。あなたを愛しています。あなたが好きです。」
「そうか・・・・・。それなら、どうして野田に抱かれた?どうして好きでも無い奴で感じた?
さっき聞いてしまったが、愛してもいない奴で、どうして自分が分からなくなってしまうほど、感じる事が出来たんだ?
本当は野田が好きなのでは無いのか?愛していてはいけないと思っているだけだろ?
そうでないと、そこまで感じる事は出来ないだろ。」
「ごめんなさい。分かりません。どうして感じてしまうのか分かりません。ごめんなさい。でも、愛しているのはあなただけです。本当です。本当です。」
この質問は昨年から何回もしています。答えも ほとんど同じです。
嘘でも妻に“あなたを愛しています。”と言って欲しいだけかも知れません。
自分に自信が無く、そう言われないと、不安なのかも知れません。
私も結婚前は、愛の無いセックスもしました。
最近も、野田の別れた奥さんと、そうなれる事を期待していました。
愛が無くても快感を得られる事は知っています。
しかし、男のエゴかも知れませんが、女である妻が、愛も無いセックスで快感を得る事は許せませんでした。
愛も無しに男の所に通う女では、あって欲しく有りませんでした。
そうかと言って、野田との間に愛が有れば、もっと許せないのでしょうが。
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5月28日(金)の7
以前は私が責めて泣かせていても、妻が涙を流している姿を見ると心が痛みました。ところが今では、慣れてしまったのか、さほど感じなくなっています。
私は意地に成っているだけで、妻への愛情が醒めてきているのかと、考えている自分に寂しさを覚えました。
別れるかどうかは別にしても、もう元の夫婦には戻れないと思うと、昔の事が頭の中を巡ります。
付き合っていた頃、初めて結ばれた時、結婚式、子供が生まれた時、子供が手を離れて行った時、色々な事が頭の中を通り過ぎて行きます。
「美鈴、昔は楽しかったな。
子供が生まれ、子供達と動物園へ行ったり、遊園地へ行ったり。
この家族がいれば、他には何もいらなかった。
美鈴や子供達が笑っていれば、他には何も望まなかった。
子供達が成長して、手を離れていった時は寂しかったが、喜ばなければいけないと、自分に言い聞かせた。
まだ俺には美鈴がいると思った。美鈴だけを見て、生きて行こうと思った。
でも美鈴は違っていたんだな。美鈴には俺だけでは無かったんだな。
昔に戻りたいな。昔を懐かしく思うのは、歳を取った証拠かもな。
昔には戻れない、以前の夫婦には戻れないと分かっているのに・・・・・・・・・・・。」
昔を思い出し、つい出てしまった言葉が、結果的に妻を責める事になってしまい、妻は、近所に聞こえるのでは無いかと思うほど、大きな声で泣き出しました。
妻が泣き止むのを待っていて、野田の事を思い出し、野田の服とセカンドバッグを抱えて玄関を出ると、野田は片方の手で股間を隠し、もう一方の手で口を覆って隅の方に蹲り、身を隠しています。
“これが あの雄弁で強気だった野田か”と思えるほど、野田は小さく見えました。
その姿を見た時、私の家庭を、私の人生を無茶苦茶に壊した男なのに、妻を辱め、その妻を奪い去ろうとしている男なのに、何故か哀れに思えました。
しかし、優しい言葉は掛ける気にならず、持っていた物を投げ付けると。
「野田、いつから転勤になる?いつ向こうへ行く?」
「来月の・・8日に・・・・日本を発とうかと・・・・・・。」
私が部屋に飛び込んでから、野田の声を聞いたのは初めてです。
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妻の所に戻ると、妻は、まだ激しく泣いていたので、頭を冷やす為にもシャワーを浴びようと、服を脱いでいると、ドアの外に人の気配がしました。
「美鈴、今日は洗ってくれないのか?」
妻は、裸のまま入って来て、ボディーソープを付けたスポンジで、私の身体を力一杯擦りながら泣いています。
いつも通り最後の場所は手で洗ってくれ、泡をシャワーで洗い流すと、何も言わず俯いていたので、
「今日は、最後のサービスは無しか?」
それを聞き、妻は むしゃぶりついて来ました。
精一杯、私にサービスするつもりで、一生懸命してくれているのですが、流石に今日は、私の物も反応しません。
「もういい、気持ち良かった。美鈴もシャワーを浴びて来い。」
まだまだ知りたい事が有り、寝室で待っていましたが妻は来ません。
余りに遅いので様子を見に行こうと思った時、バスタオルを巻いただけの格好で妻が入って来ました。
「遅かったが何をしていた?まだ聞きたい事が有ったが、今日はもう寝よう。」
すると妻は、私の質問には答えないで、立ったままバスタオルを下に落とし。
「あなた、抱いて下さい。こんな私ですが抱いて下さい。一生のお願いです。今夜だけは どうしても抱いて欲しい。無茶苦茶にして欲しい。」
私の返事も聞かずに、飛び掛るように私を押し倒し、乱暴に私を裸にすると、夢中で体中に舌を這わせて来ます。
私は呆気に取られ、妻のしたい様にさせていました。
妻の執拗な攻撃で、今日は無理だと思っていた私の物が反応を示すと、妻は上に跨り、自分で中に収めると、凄い勢いで腰を使って来ます。
この時の妻は鬼気迫る物があり、達して胸に崩れ落ちても、またすぐに起き上がり、腰を使って来ます。
私が一度放出したにも関わらず、妻の物と私の出した物で、べとべとになった物を、また口に含み、これでもかと言うぐらい舌を使い、また元気にすると腰を沈めて来ました。
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5月29日(土)の1
昨夜は、何がどうなったのか分からないぐらい私も興奮し、達しても、達しても求めて来る妻に、私も激しく応戦したせいか熟睡してしまい、目が覚めると昼前でした。
隣で寝ていたはずの妻の姿は無く、家中探しましたが何処にもいません。
窓から外を見ると妻の車が有りません。
訳が分からず、水を飲もうとキッチンへ行くと、先程は気付きませんでしたが、テーブルの上に1枚の便箋を見付けました。
〔あなた、ごめんなさい。
私もずっと昔の事を思い出していました。
私も昔に戻りたいと思いました。
あなたに出会った時から、現在までの自分と向き合っていて、その時 私は、気付いてしまいました。
あなたの言う通り、心のどこかで課長に抱いて欲しくて、アパートに行っていたと気付いてしまいました。
そんな筈は無いと、またその事を打ち消したのですが、シャワーを浴びながら考えていると、色々な事が分かって来ました。
昨年 あなたを裏切ってしまい、あなたに許してもらえたのに、今年になってからも、あなたがいない夜、何回も課長との行為を思い出して、自分で慰めていた事も分かりました。
いいえ、分かっていたのに今まで、そんな事は無いと、自分で自分を否定して来ました。
結局、昨年から、ずっと あなたを裏切り続けていたのです。
言われた通り、今回も私は、脅されて無理やりされたと、自分に言い聞かせていただけで、本当は気持ち良くなりたくて、被害者を装いながら通っていたと、はっきりと分かりました。
でも、本当にそれまでは、脅されたから仕方無かったと思っていました。私は被害者だと思っていました。
こんな事を書いてから、信じてもらえないでしょうが、私が愛しているのは、あなただけです。
課長との行為に溺れてしまった私ですが、愛しているのは、あなただけです。
あなたを愛しています。
それだけは信じて下さい。
自分のしてしまった事に気付いた以上、もうあなたの目を見る事は出来ません。
本当は、人生最後の瞬間は、あなたに手を握り締めていて欲しかったのに、それも自分で駄目にしてしまいました。
あなたと出会えて良かった。
あなたと夫婦になれて良かった。
あなたの妻で凄く幸せでした。
今まで本当にありがとう。愛しています。〕
この便箋は、何箇所か文字が滲んでいます。
私の頭に“自殺”という文字が浮かび、昨夜の妻を不思議に思いながらも、気が付かなかった事を悔やみました。
妻の携帯に電話しても、電源が切られています。
こんな緊急事態でも、詳しい内容までは話せず、夫婦喧嘩をしたら出て行ったと、妻の実家や、子供達の携帯に電話をしましたが、妻は何処にもいません。
いつ出て行ったのかさえ分からず、今向かっている可能性も有り、もしも そちらに行ったら連絡が欲しいとだけ言い、警察に行くと、
「夫婦喧嘩で、それも今朝いなくなったばかりでしょ?一応探しますが、心配無いと思いますよ。」
私が真実を話せず、便箋も見せなかったので無理も有りません。
野田の所には行っていないと思いながらも、アパートに急ぎました。
野田は私と分かると、ドアを開けてくれなかったので、もしや?と思いましたが、妻がいなくなった事を言うと、ようやく中に入れてくれました。
野田に便箋を見せると、野田の表情は見る見る変わり、
「私も心当たりを探します。」
そう言って、すぐに誰かに電話し、
「君の所に、美鈴君は行っていないか?
そうか。実は今、ご主人から連絡が有って、親戚で不幸が出来たそうなのだが、
携帯を切ったまま忘れているらしくて、何処に行っているのか分からないそうなんだ。
もしもそちらに行ったら、すぐ私に連絡をくれ。」
流石 野田です。咄嗟の嘘が上手だと、こんな時にも感心してしまいます。
野田の所には、来ていないと思いながらも、微かな期待を持っていたのですが、慌てようから、野田も妻の所在を、本当に知らないのだと思いました。
野田は、見つかり次第 すぐに連絡すると言い残し、唇が腫れた顔と、まだ梳かしていないボサボサの髪のまま、また誰かに携帯を掛けながら車で出て行ってしまいました。
その後 私も、心当たりを探し回りましたが、妻は見つかりません。
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