みんなの大好きな、みどりいろのあいつの話
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60 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 22:10:10.54 ID:l7VywiqX0
ロックは自分の書いた譜面を指差して、言った。
「歌の経験があるなら、ジュークも分かるだろう?
見ろよ、本当にきれいな譜面だ。いい曲は譜面まで美しい。
さっき、なかなかいい曲を書いちまったんだよ、俺は。
全盛期の俺以外歌えないような広音域なのが問題だが」
そう言って、ロックはジュークに五線紙を手渡した。
ジュークはロックの書いた曲の譜面を、ラブレターでも読むみたいな表情で読んだ。
こういうの、なつかしいなあ。
ジュークは頭の中でそうつぶやいた。
62 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 22:15:12.16 ID:l7VywiqX0
音符に集中しているジュークの形の良い頭頂部を、ロックは穏やかな目で見つめていた。
「100日目にしてようやく気づいたんだが、ジュークの髪、黒でコーティングされてるだけで、本当の色はエメラルドグリーンなんだな」
ロックはそう言ってジュークの髪に触れる。
ジュークは くすぐったそうに顔をかたむける。
「いや――正確には、ハツネグリーンか。
なあジューク、この色名の由来を知ってるか?
“ハツネ”っていうのは、ちょうど百年くらい前に、日本から生まれたディーヴァの名前なんだ」
65 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 22:26:34.12 ID:bw9cuV0wO
色弱だから水色にしか見えないんだけどミクさんて緑なの?
67 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 22:44:57.25 ID:OHNGIijb0
>>65
yes
74 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:14:07.00 ID:l7VywiqX0
「”ヴォーカロイド”って言葉くらい知ってるだろう?
現状からするとちょっと信じがたい話だが、三十年くらい前までは、人間の歌ったものより、ヴォーカロイドの歌ったもの方が人気があったんだ。
まあ、ヴォーカロイドに人気があったというよりは、商業音楽が自滅した、っていう方が近いのかもしれない。
あんまりにもあらゆる権利を主張し過ぎたんだな。
反動で一時期同人音楽が大流行したんだが、その流行を支えたのが、ヴォーカロイドの存在だったんだ。
今でこそ同人音楽の一切が禁止されて日の目を見なくなったヴォーカロイドだが、全盛期は、本当に世界中を熱狂させてたんだよ。
ヴォーカロイドの中でも特に絶大な人気を誇ったのはハツネグリーンの由来となった『ハツネ』なんだ。
歌は上手くなかったんだが、キャラクターが受けて……」
75 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:19:25.89 ID:l7VywiqX0
ジュークは立ち上がり、五線紙をロックに返した。
そして部屋の隅にあるシンセサイザーの前に座り、先ほどの譜面を、正確過ぎるほど正確に弾き語ってみせた。
「ますたーのいうとおり、わたしは、うたがうまくないです」
演奏を終えたジュークは、そう言ってはにかんだ。
ロックはしばらく黙り込んでいた。
「ジューク、お前……声が出せたのか?」
「はい。このとおり、ぎこちないですけどね」
まるで、百年前の機械の合成音みたいな声。
そしてコーティングに隠れたハツネグリーンの髪。
完璧すぎる音程、広すぎる音域。
まるで”そのもの”じゃないか、とロックは思う。
76 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:24:25.07 ID:B3HX2e5rO
いいよいいよー
77 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:29:39.99 ID:l7VywiqX0
「馬鹿馬鹿しい質問をひとつ、いいか?」
「なんでもきいてください、ますたー」
「ジュークは……ハツネなのか?」
「はつねは、じつざいしません」
「そりゃそうだ。分かった、質問を変えよう。
ジュークはなぜ、ハツネにそっくりなんだ?」
ジュークは左腕を差し出して、手首を回す。
途端、左腕に、髪と同じ色ボタンが複数現れる。
古いシンセサイザーのパネルを彷彿とさせるデザイン。
まるでヤマハのDX7みたいだな、とロックは思った。
78 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:35:43.09 ID:l7VywiqX0
「じゅーくは、ほんものの はつねではありません。
ただ、かぎりなくちかいものではあります。
そうなるように、からだをいじられたんです」
「弄られた?」ロックは顔をしかめる。
「さいしょは、じゅーくも ふつうのにんげんでした。
かみはくろくて、こえもふつうでした。
でも、むりやりはつねにさせられたんです。
といっても、きおくはけされちゃったから、
じぶんがどういうにんげんだったのかは、
おもいだすことができませんけどね」
80 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:50:37.31 ID:l7VywiqX0
「こりゃ傑作だ」とロックは手を叩いた。
「69と暮らす19は、本当は39だったわけだ」
ロックは笑った。ジュークは笑わなかった。
「正直、気がめいる話だ」とロックは額に手を当てた。
「そうか、ハツネグリーンの髪を黒くコーティングして喋れないふりをしてたのには、そういう理由があったのか。
たしかに今の時代、ハツネの姿と声で街を歩いてたら、いきなり拳銃で撃たれても不思議じゃないからな。
……肩の火傷は、誰かにやられたのか?」
「いえ、ここに、01ってかいてあったんですよ。それをけすために、ちょっとやいたんです」
ジュークは襟から肩を出して、その跡を見せた。
81 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 00:00:35.98 ID:GxPuxG5u0
いつの間にか、激しい雨が屋根を叩いていた。
「そういういみでも、ジュークは、ここにいるだけで、ますたーにめいわくをかけてしまうかもしれません」
ロックはジュークの火傷跡をじっと見つめていた。
「俺の喉にさわってみな」とロックが言った。
ジュークは おそるおそる手を伸ばした。
しばらく喉を撫でた後、ジュークは息をのんだ。
「つくりもの、ですか?」
「そう。つくりものだ」とロックはうなずいた。
「ロックンローラーの正体は、つくりものなんだ。
現役時代に無理をさせ過ぎて、もう使い物にならないが」
82 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 00:10:33.00 ID:GxPuxG5u0
ジュークは何回もロックの喉を触って、それが作り物であることを確かめた。
ますたーも、じゅーくのなかまなんだ。
うれしくなったジュークは、歌を口ずさみ始めた。
ジュークがうれしくて歌を歌うのは数年ぶりだった。
その古い古い歌を、ロックはよく知っていた。
しあわせなシンセサイザの歌。
歌がコーラスに差し掛かったところで、ロックはシンセサイザーの前に立ち、ジュークの歌に合わせて伴奏を弾きはじめた。
83 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 00:21:35.52 ID:GxPuxG5u0
演奏を終えると、ロックはジュークの手を取った。
「ジューク、早くもお前の新しい仕事が決まった。俺は楽器なら何でも弾けるが、肝心の歌が歌えない。だがジュークなら、俺の作る歌の音域にも対応できる」
ジュークは目を瞬かせながらロックの顔を見た。
「でも、どうじんおんがくは、きんしされてるのでは?」
「ああ。加えて音響兵器の脅威によって、今や音楽なんて ほんの一部の物好きのためだけのものになってしまっている。
でもジューク、俺は一度でいいから、自由に音楽をやってみたいんだ。
皆が耳を塞いだ、音楽の弱った時代で、だからこそ革命を起こしたいんだ」
84 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 00:39:45.58 ID:GxPuxG5u0
「また、うたえる」とジュークは目を閉じて微笑み、
ソファーの上で三角座りして、うれしそうに体を揺らした。
「うまく ちょうきょうしてくださいね、ますたー」
「調教? ……ああ、調律のことか。任せな」
「そうしたら、ジュークは、ますたーをいっぱいほめます」
「そうしてくれ。俺は褒められるのが大好きなんだ」
それからというもの、二人は楽器だらけの部屋にこもり、朝も夜もなく、ひたすら曲作りに打ちこんだ。
自分の本当の役目を果たしているという実感は、ロックを薬や喧嘩から遠ざけていった。
87 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 12:07:15.10 ID:GxPuxG5u0
二か月かけてアルバムを二枚作り終えたところで、ロックの中にあった焦燥感のようなものが、ふっと去って行った。
ひとまず最低限やりたかったことはやれたな、とロックは思った。
無駄とは知りつつも、ロックはそれらをウェブにアップロードした。
お祝いにフランス料理を食べにいった、帰りのことだった。
焦りから解放されたロックは、隣を歩くジュークを見て、ふと、自分がこの少女について何も知らないことに気付いた。
「ジュークは、昔のことで、覚えてることはないのか?」
ジュークはしばらく考え込んでいた。
「おぼろげですけど……なかまがいたきがします」
「仲間? ひょっとして、ヴォーカロイドの?」
「たぶん、そうですね。あとはおもいだせません」
他にもジュークみたいな子がいるのだろうか、とロックは思った。
88 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 12:38:05.89 ID:GxPuxG5u0
「はっきりとした記憶は、どこから始まるんだ?」
「それは、そうこからはじまりますね。じゅうでんきにつながれて、ぼうっとしてました」
「充電器? 食事とかはどうしてたんだ?」
「じゅーく、いちおう、でんきだけでもいきてけるんです」
「そうか……倉庫では、どんな風に毎日を過ごしてたんだ?」
「いえ、ですから、じゅうでんきにつながれてました。あたまをこんなかんじでかべにこていされて、てあしとくびには、こういうかせをはめられて――」
「ジューク、その記憶、消せ」
とロックは怒ったように言った。
「俺と出会う直前までの記憶は、全部消しちまえ」
89 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 12:54:12.96 ID:GxPuxG5u0
ジュークは とまどったような顔で言った。
「でも、このきおく、じぶんのたちばをしるうえでは、すごくわかりやすくて、じゅうようなきおくなんです」
「立場なんて忘れちまえ。ジューク、よく考えてくれ。
ジュークがそれを当然のように話すのは、おかしいんだ。
それはロボットにとっては当然の状態かもしれないが、ジュークにとっては地獄だったはずなんだよ。
くそったれ、あの店主ジュークが人間だってことは知ってたんだろ?」
「んー、でもだいじょうぶなんですよ」とジュークは笑う、
「じゅーく、なんかもう、きかいみたいなものですし」
ロックは自分の書いた譜面を指差して、言った。
「歌の経験があるなら、ジュークも分かるだろう?
見ろよ、本当にきれいな譜面だ。いい曲は譜面まで美しい。
さっき、なかなかいい曲を書いちまったんだよ、俺は。
全盛期の俺以外歌えないような広音域なのが問題だが」
そう言って、ロックはジュークに五線紙を手渡した。
ジュークはロックの書いた曲の譜面を、ラブレターでも読むみたいな表情で読んだ。
こういうの、なつかしいなあ。
ジュークは頭の中でそうつぶやいた。
62 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 22:15:12.16 ID:l7VywiqX0
音符に集中しているジュークの形の良い頭頂部を、ロックは穏やかな目で見つめていた。
「100日目にしてようやく気づいたんだが、ジュークの髪、黒でコーティングされてるだけで、本当の色はエメラルドグリーンなんだな」
ロックはそう言ってジュークの髪に触れる。
ジュークは くすぐったそうに顔をかたむける。
「いや――正確には、ハツネグリーンか。
なあジューク、この色名の由来を知ってるか?
“ハツネ”っていうのは、ちょうど百年くらい前に、日本から生まれたディーヴァの名前なんだ」
65 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 22:26:34.12 ID:bw9cuV0wO
色弱だから水色にしか見えないんだけどミクさんて緑なの?
67 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 22:44:57.25 ID:OHNGIijb0
>>65
yes
74 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:14:07.00 ID:l7VywiqX0
「”ヴォーカロイド”って言葉くらい知ってるだろう?
現状からするとちょっと信じがたい話だが、三十年くらい前までは、人間の歌ったものより、ヴォーカロイドの歌ったもの方が人気があったんだ。
まあ、ヴォーカロイドに人気があったというよりは、商業音楽が自滅した、っていう方が近いのかもしれない。
あんまりにもあらゆる権利を主張し過ぎたんだな。
反動で一時期同人音楽が大流行したんだが、その流行を支えたのが、ヴォーカロイドの存在だったんだ。
今でこそ同人音楽の一切が禁止されて日の目を見なくなったヴォーカロイドだが、全盛期は、本当に世界中を熱狂させてたんだよ。
ヴォーカロイドの中でも特に絶大な人気を誇ったのはハツネグリーンの由来となった『ハツネ』なんだ。
歌は上手くなかったんだが、キャラクターが受けて……」
75 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:19:25.89 ID:l7VywiqX0
ジュークは立ち上がり、五線紙をロックに返した。
そして部屋の隅にあるシンセサイザーの前に座り、先ほどの譜面を、正確過ぎるほど正確に弾き語ってみせた。
「ますたーのいうとおり、わたしは、うたがうまくないです」
演奏を終えたジュークは、そう言ってはにかんだ。
ロックはしばらく黙り込んでいた。
「ジューク、お前……声が出せたのか?」
「はい。このとおり、ぎこちないですけどね」
まるで、百年前の機械の合成音みたいな声。
そしてコーティングに隠れたハツネグリーンの髪。
完璧すぎる音程、広すぎる音域。
まるで”そのもの”じゃないか、とロックは思う。
76 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:24:25.07 ID:B3HX2e5rO
いいよいいよー
77 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:29:39.99 ID:l7VywiqX0
「馬鹿馬鹿しい質問をひとつ、いいか?」
「なんでもきいてください、ますたー」
「ジュークは……ハツネなのか?」
「はつねは、じつざいしません」
「そりゃそうだ。分かった、質問を変えよう。
ジュークはなぜ、ハツネにそっくりなんだ?」
ジュークは左腕を差し出して、手首を回す。
途端、左腕に、髪と同じ色ボタンが複数現れる。
古いシンセサイザーのパネルを彷彿とさせるデザイン。
まるでヤマハのDX7みたいだな、とロックは思った。
78 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:35:43.09 ID:l7VywiqX0
「じゅーくは、ほんものの はつねではありません。
ただ、かぎりなくちかいものではあります。
そうなるように、からだをいじられたんです」
「弄られた?」ロックは顔をしかめる。
「さいしょは、じゅーくも ふつうのにんげんでした。
かみはくろくて、こえもふつうでした。
でも、むりやりはつねにさせられたんです。
といっても、きおくはけされちゃったから、
じぶんがどういうにんげんだったのかは、
おもいだすことができませんけどね」
80 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:50:37.31 ID:l7VywiqX0
「こりゃ傑作だ」とロックは手を叩いた。
「69と暮らす19は、本当は39だったわけだ」
ロックは笑った。ジュークは笑わなかった。
「正直、気がめいる話だ」とロックは額に手を当てた。
「そうか、ハツネグリーンの髪を黒くコーティングして喋れないふりをしてたのには、そういう理由があったのか。
たしかに今の時代、ハツネの姿と声で街を歩いてたら、いきなり拳銃で撃たれても不思議じゃないからな。
……肩の火傷は、誰かにやられたのか?」
「いえ、ここに、01ってかいてあったんですよ。それをけすために、ちょっとやいたんです」
ジュークは襟から肩を出して、その跡を見せた。
81 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 00:00:35.98 ID:GxPuxG5u0
いつの間にか、激しい雨が屋根を叩いていた。
「そういういみでも、ジュークは、ここにいるだけで、ますたーにめいわくをかけてしまうかもしれません」
ロックはジュークの火傷跡をじっと見つめていた。
「俺の喉にさわってみな」とロックが言った。
ジュークは おそるおそる手を伸ばした。
しばらく喉を撫でた後、ジュークは息をのんだ。
「つくりもの、ですか?」
「そう。つくりものだ」とロックはうなずいた。
「ロックンローラーの正体は、つくりものなんだ。
現役時代に無理をさせ過ぎて、もう使い物にならないが」
82 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 00:10:33.00 ID:GxPuxG5u0
ジュークは何回もロックの喉を触って、それが作り物であることを確かめた。
ますたーも、じゅーくのなかまなんだ。
うれしくなったジュークは、歌を口ずさみ始めた。
ジュークがうれしくて歌を歌うのは数年ぶりだった。
その古い古い歌を、ロックはよく知っていた。
しあわせなシンセサイザの歌。
歌がコーラスに差し掛かったところで、ロックはシンセサイザーの前に立ち、ジュークの歌に合わせて伴奏を弾きはじめた。
83 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 00:21:35.52 ID:GxPuxG5u0
演奏を終えると、ロックはジュークの手を取った。
「ジューク、早くもお前の新しい仕事が決まった。俺は楽器なら何でも弾けるが、肝心の歌が歌えない。だがジュークなら、俺の作る歌の音域にも対応できる」
ジュークは目を瞬かせながらロックの顔を見た。
「でも、どうじんおんがくは、きんしされてるのでは?」
「ああ。加えて音響兵器の脅威によって、今や音楽なんて ほんの一部の物好きのためだけのものになってしまっている。
でもジューク、俺は一度でいいから、自由に音楽をやってみたいんだ。
皆が耳を塞いだ、音楽の弱った時代で、だからこそ革命を起こしたいんだ」
84 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 00:39:45.58 ID:GxPuxG5u0
「また、うたえる」とジュークは目を閉じて微笑み、
ソファーの上で三角座りして、うれしそうに体を揺らした。
「うまく ちょうきょうしてくださいね、ますたー」
「調教? ……ああ、調律のことか。任せな」
「そうしたら、ジュークは、ますたーをいっぱいほめます」
「そうしてくれ。俺は褒められるのが大好きなんだ」
それからというもの、二人は楽器だらけの部屋にこもり、朝も夜もなく、ひたすら曲作りに打ちこんだ。
自分の本当の役目を果たしているという実感は、ロックを薬や喧嘩から遠ざけていった。
87 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 12:07:15.10 ID:GxPuxG5u0
二か月かけてアルバムを二枚作り終えたところで、ロックの中にあった焦燥感のようなものが、ふっと去って行った。
ひとまず最低限やりたかったことはやれたな、とロックは思った。
無駄とは知りつつも、ロックはそれらをウェブにアップロードした。
お祝いにフランス料理を食べにいった、帰りのことだった。
焦りから解放されたロックは、隣を歩くジュークを見て、ふと、自分がこの少女について何も知らないことに気付いた。
「ジュークは、昔のことで、覚えてることはないのか?」
ジュークはしばらく考え込んでいた。
「おぼろげですけど……なかまがいたきがします」
「仲間? ひょっとして、ヴォーカロイドの?」
「たぶん、そうですね。あとはおもいだせません」
他にもジュークみたいな子がいるのだろうか、とロックは思った。
88 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 12:38:05.89 ID:GxPuxG5u0
「はっきりとした記憶は、どこから始まるんだ?」
「それは、そうこからはじまりますね。じゅうでんきにつながれて、ぼうっとしてました」
「充電器? 食事とかはどうしてたんだ?」
「じゅーく、いちおう、でんきだけでもいきてけるんです」
「そうか……倉庫では、どんな風に毎日を過ごしてたんだ?」
「いえ、ですから、じゅうでんきにつながれてました。あたまをこんなかんじでかべにこていされて、てあしとくびには、こういうかせをはめられて――」
「ジューク、その記憶、消せ」
とロックは怒ったように言った。
「俺と出会う直前までの記憶は、全部消しちまえ」
89 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 12:54:12.96 ID:GxPuxG5u0
ジュークは とまどったような顔で言った。
「でも、このきおく、じぶんのたちばをしるうえでは、すごくわかりやすくて、じゅうようなきおくなんです」
「立場なんて忘れちまえ。ジューク、よく考えてくれ。
ジュークがそれを当然のように話すのは、おかしいんだ。
それはロボットにとっては当然の状態かもしれないが、ジュークにとっては地獄だったはずなんだよ。
くそったれ、あの店主ジュークが人間だってことは知ってたんだろ?」
「んー、でもだいじょうぶなんですよ」とジュークは笑う、
「じゅーく、なんかもう、きかいみたいなものですし」
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