別れた妻
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「ちょっと病院に寄ってくるので、遅くなる。時間がわかったらまた電話する。」と電話を入れ、コーヒーの残りを口に運びました。
「ところで、奥さんとはうまくいってるの?」
彼女が私に聞きました。
「あ、ああ、うん。」
それから私達は、お互いのこれまでの話をしました。
私と今の妻との話は、彼女も知っていることでしたが、彼女と今の夫との馴れ初め、そして結婚の話は、私が初めて聞く話で、聞きながら私の心は せつなく疼き続けました。
それによれば、今の夫は彼女の会社の得意先の会社の人で、彼女が仕事の関係で何度か出入りするうちに食事に誘われ、そして交際を進めるうちにプロポーズされたということでした。
「安心を絵に描いたような人なんだけどね、結婚したら仕事も辞めてくれっていうし。でもね、ああいうことがあったからかしら、そういう平凡で安心な人に惹かれたのかもね。」
彼女がうっすらと微笑みながら私にそう言いました。
「ほんとうにゴメン。」
私は、そう言ってまた頭を下げました。
「あ、ううん、あなたを責めているんじゃなくって。」
彼女は、そう言ってくれましたが、私は、済まない気持ちでいっぱいで、しばらく下を向いていましたが、そのうち不覚にも涙が鼻をつたって私の手に落ちました。
「馬鹿ねえ・・・。」
それを見つけた彼女が小さな声で言います。
「ごめん、なんと言って謝ったらいいか、自分でもわからないんだ。」
私はうつむいたまま言いました。涙がまた一つ手の甲に落ちました。
「何泣いてんのよ、突然やってきたと思ったら・・・。」
でも、そう言っている彼女の声も涙声になっていて、そっと目頭を押さえると横を向きました。
そうやって私達は、しばらく無言のまま、窓から穏やかに差し込む朝の日の中でたたずんでいました。
「ねえ、どこかに一緒に行かない?」
彼女が手を上に上げ背伸びをしながら言いました。
「えっ。」
私が驚くと、彼女は、呆れた顔をして
「馬鹿ね、ドライブよ。会社休んじゃえば。別にどってことないでしょう、もう遅れてるんだし。」
「あ、うん。」
と私がうなずくと、彼女は
「じゃあ、着替えしてくるから待ってて。」と言って出て行った。
寝室に行ったのかな、と私は思いました。
前妻が今の夫と夜を過ごす寝室に興味が湧きましたが、まさか「見せてくれる?」と聞くわけにもいきません。
彼女が着替えをしている寝室には、ベッドがあって、ひょっとしたらダブルベッドかな。
その上で、前妻は今の夫に抱かれてるんだ・・・、などと一人でモヤモヤと想像するしかできませんでした。
不思議なものです。
彼女と夫婦だったときには、私の目の前で彼女が着替えをしてもお互い平気で、裸になった彼女を後ろから抱きすくめて怒られるくらいでしたが、今の彼女は私の目を避け、夫婦の寝室で着替えをしているわけですから。
人は、紙一枚で他人になると、振る舞いまですぐ他人行儀になれるのでしょうか。
もっとも、私と前妻の間には、空白の時間もそれなりに経過しているので仕方ないかもしれませんが。
そうそう、電話をしなければ・・・。
我にかえった私は、携帯で会社に、結局行けなくなったと電話を入れました。
部下は「大丈夫ですか、大事にしてくださいよ。」と言っていたが、私はあいまいに返事をして電話を切りました。
そこに着替え終わった彼女が現れました。
彼女は、私のお気に入りの薄い水色のブラウスに白のタイトスカートでした。
特にブラウスは、ほどよく胸の部分が開いていて、形のいい前妻のバストがわずかに露になるのが私のお気に入りでしたし、タイトスカートもきれいなヒップラインがはっきり出るので私は好きでした。
「そ、それ、懐かしいね・・・。」
彼女は、ちょっと赤くなったみたいでした。
私は、彼女について外に出て、小さな門の内側に止めてあった赤い車の助手席に乗り込みました。
車がとめてあった場所は、ちょうどガレージの屋根に隠れるようになって周りから、見られることもないようでしたが、私はドアの隙間からするりとシートに身を滑り込ませ手早くドアを閉めました。
彼女と一緒だった頃は誰はばかることなく一緒にいられたのに、今はコソコソと人目から隠れるようにしなければならないのですから、変なものです。
車に乗った私たちは話し合って、私たちが結婚前によくデートしていた港の公園に行くことにしました。
「車、やっぱり赤なんだね。」
車が動き出すと私は言いました。
「あ、これ? わたしが赤がいいって言ったら、あの人がそうしてくれたの。どうせ君が一番乗るんだからって言って。」
「やさしいんだね、いまの旦那さん。」
「まあね、ずいぶんわたしが年下だし、好きなようにさせてくれるってとこかしら。」
彼女は、前を向いたままかすかに微笑んだ。
私は、少しシートを後ろに倒し、運転している前妻の横顔を見つめていた。
「何そんなにジロシロ見てるの?久しぶりに見る元妻がそんなに珍しいの?」
彼女が笑いながらそう言いました。
私はそれには答えず、彼女の顔を見つめ続けていましたが、
「なんか綺麗になったね、君。」
「なーに言ってるの、キモチ悪いわねえ、急に。」
「ホントだって。」
「もういいわよ、奥さんに怒られるわよ、元妻を口説いたりしちゃあ。」
そう言ってまた笑います。
公園近くの駐車場に車を止めた私たちは、公園を横切り、海に面した場所に向かいました。
そこにはベンチがあって、私たちは海に沈む太陽と夕焼けをよくそこで眺めましたが、今日はそこは、午前の日差しで満ちていました。
ウィークデーの午前中ということもあってか、人もまばらでした。
私たちは、その中の一つのベンチに並んで腰掛けて、海を眺めました。
「この場所が好きだったわね、二人とも。」
「ああ、よく来たね。キスしに。」
「あは、そうだわね。」
と言って、彼女は遠くを見つめたまま微笑みました。
「ねえ。」
「何?」
彼女が遠くを見つめたまま聞き返します。
「キスしていい?」
彼女が微笑んだまま顔を私に向けます。
私は、顔を彼女に近づけ、唇を合わせると、彼女の首を軽く押さえて、長い長いキスをしました。
「あなたにしてもらったキスの中で、今のが一番よかったわ。」
彼女がそう言って笑った。
私は、彼女の手を握り、ベンチの背に体をあずけました。
「あーあ。」
私は大きな声を出して言いました。
「どうしたの、何があーあ、なの。」
「説明できないよ、あーあって言うしか。」
「変な人ねえ。」
彼女が笑います。
「気持ちいい風ね。」
私に手を握られたまま、遠くを眺めている彼女が言いました。
私たちに向かって心地よい海風が吹いていました。
「抱いて、昔みたいに。」
彼女がぽつりと言いました。
私は、彼女の小さな肩に手をまわし、抱き寄せました。彼女の温かみが私に伝わります。
彼女は、昔ここで そうしたみたいに頭を私の肩に乗せました。
私は彼女の髪に顔をくっつけます。
「あーあ。」
今度は彼女が言いました。
「何だよ、君だって言ってるじゃないか。」
私がそういうと、私たちは一緒に笑いました。
それから私たちは、昔よく行ったイタリアン・レストランでランチを食べ、街を散歩しました。
そして自然とホテル街の方に歩いて行き、どちらが誘うともなくその中の一つに入っていきました。昔私たちが使っていた頃と違って、ずいぶん垢抜けた感じがします。
部屋に入るまでは二人とも無言でしたが、部屋に入ると、私は彼女を強く抱きしめました。
彼女も私の背中に腕をまわして応じます。
しばらく抱き合ってから、やっと離れると、私はもうたまらず彼女を静かにベッドに倒し、唇を重ね、彼女の舌を求めました。
そうしながら、私の手は、彼女の体を確かめるようにブラウスとスカートの上を這い回りました。
私たちは、お互いの唇を求め続けながら、お互いの服を脱がせ、そして交わりました。
彼女の中の奥まで挿入し終わると、私は痺れるような幸福感の中で彼女の中の感触を味わうようにじっとしていました。
「どうしたの?勝手が違う?」
彼女が耳元で囁きました。
「いや、すごく気持ちいい。」
それは本当でした。
久しぶりだということもあったのかもしれません。でも、それ以上に彼女の体は「美味しく」なっていました。
それから私は、頭の芯が溶けてしまいうな快感に陶酔しながら彼女の中で動き続け、何度も何度も求め続けました。
「中はダメよ。」と彼女が耳元で言うので、私は彼女のお腹の上に射精しました。
それは、これまでに経験したことのないような激しい射精でした。
私が彼女のお腹にたまったザーメンを丹念にティッシュで拭って上げると、私たちはベッドの上に並んで仰向けになり肩で息をしていました。
「わたしたち、不良だわ。」
彼女が上を向いたまま笑いながら言います。
「そうだな。」
私も同意しました。
「でも、あなたの方がもっと不良だわ。」
「どうして?」
「だって、あなたが家に来なければ、わたしはこうなってなかったわ。」
「後悔してる?」
「あの人に悪いことしたと思ってる。」
彼女の口から出た、あの人という言葉に私の胸は疼きましたが、私も心の片隅で同じことを今の妻に感じていました。
それにしても不思議なものです。彼女と一緒だったときは、セックスに何の後ろめたさものはなく、ある意味でそれは日常の一部でした。
ところが、今は彼女とのセックスに罪悪感さえ感じている・・・。もちろん、それはどこか甘美な罪悪感でしたが。
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